魔法薬屋『妖精の泉』
「うん、知ってるよ」
アロエやらヘチマやらの特徴、それと欲しい薬効の事を話すと、ヴィヴィアンはそう答えた。
まぁ、前世でもそんなに珍しい植物って訳でも無かったんだし、そもそも、そう言うのに詳しい人物って事で紹介されたんだから、当たり前ちゃぁ当たり前なんだけんどもよ。
ただ、下手すりゃ似たような植物なんざ無いって可能性も有ったんで、ここまであっさり行くと、ちょっと拍子抜けな気もするわ。
「大森林抜けた先の北方山脈付近にいる植物型魔物だね」
って、うぉいぃ!! え?モンスターなの? 両方とも? いや、それよりも大森林抜けたて、隣国じゃね? 北方ってぇと、魔人族の国とも違う方向の!!
予想以上の生息地の遠さに思わず目を剥く。こないだ魔人族の王都に行って来たばかりな上、この後も行って来ないといけないんだが!?
イブに目配せをすると、彼女も頷いた。流石にチョロっと採りに行くとかは無理っぽいわ。
「それ、ここ、とりあつかって、る?」
「うんにゃ、素材そのものは扱って無いよ。魔物の方が薬効が良いからね。あたしも偶に入って来るヤツは水薬の材料にしちゃうし」
ヴィヴィアンがポヤンポヤンしながらそう言う。まぁ、魔物だしな。希少価値も高いんだろう。てえか、魔物じゃない奴では無いんかね?
「まものじゃないのは、ないの?」
……自分の口から出た言葉なのに背筋が寒くなる。2歳くらいだとこんなもんだろうとは思うが、駄目だ、凍死するわ! こんなん!!
俺が発言した事で、ヴィヴィアンが『どうしたのかな? ボク』って感じで顔を覗き込んで来た。
あー、うん。やっぱりストレス良くない。うん。
「魔物以外で、同じ様な薬効の植物は居ないのか?」
「へ?」
うん、2歳児の口から出る様な喋り方じゃないのは分かってる。だが、さっきの喋り方だと俺が凍死するんで、このまま行かせて貰おう。
「魔物以外で、同じ様な薬効の植物は無いのかと聞いているんだが?」
「え? あ、う、うん。でも、正直、薬効と言う意味では雲泥の差があるよ?」
「効果が高かろうが、手に入らんのであれば絵に描いた餅だ。薬効が低かろうと、入手が易い方が良い」
そもそも普段使いにする為の物を作ろうと言うんだ、手に入り難くてどうするという。
「いやいや、薬効の高さは大事ですよ? むしろ薬効の低い素材なんて使って何になるんですか!! 例えば強力な魔物と闘ってたとしますよ? 攻撃を受け、体力も低下。そんな時に効果の薄いポーションしか無かったら致命傷ですよね!? 違いますかっ!?」
え? 何この人、薬効第一主義かなんかなの? 悪いが、俺、自回復者なんで、ポーションって使わんのだよ。
で、なくて、そもそも原材料にする蜜蝋が結構お高めなんで、それ以外の材料は安価にしたいんだよな。
まぁ、蜜蝋じゃなくても、常温で半固形化する、体に害のない油脂なら何でも良いんだが。そうなると獣脂が一番に候補に挙がるんだけども、あれは匂いがねぇ……
なんで、結局は蜜蝋一択になる。
『【辟易】確かに色々と研究してるようですけど、結局、希少で効果の高い物だけが良いとか固定観念でガチガチなのデス』
ヴィヴィアンの話に耳を傾けてたらしいロボウィザードがそうこぼす。
「ああ、結局、本質的に研究者って事だろう? 常に最高値を求めるから適宜って言葉を忘れっちまうんよ」
『【賛同】私もそう思います。マスター……あ! さすがマスター。さすマス!』
昨日のOHANASHIが相当応えたのか、微妙に俺の機嫌を窺ってやがるな。
だが、その伺い方はどうかと思うぞ。
「分かってて言ってるだろう? それ、またアーカイブからだな? アクセス禁止って言ったと思ったが?」
『【謝罪】OHANASHIだけは許してください!! マスター!!』
まぁ良いけどさ、蜜蝋を安価にする為には、養蜂でもできればまた違うんだろうが、俺にそんなノウハウなど無い。そもそもあれって花畑が無いと難しいんじゃなかったか?
そうなると、養蜂をする為に、先ずお花畑を作らにゃならんと言う、エライ遠回りな事に成るんだよな。
大規模にやるんならともかく、それ程大量生産とかするつもりもないから、それだと面倒なだけだわ。うん。
「オマエ等は養蜂の事で、何か知らんか?」
『【回答】基本的な事なら分かりますが、この地に養蜂に適した蜂が居るか、また、それが行えるだけの花の群生地が有るかまでは確認できていません。マスター』
『【弁明】所詮アーカイブは、ボク達が作られた頃の情報がメインなのデス。殆ど宝物庫に押し込められていたから、アップデートも侭ならなっかったのデス』
『【軽蔑】その頃、私は邪竜封印に尽力していたのですがね』
『【困窮】……』
喧嘩すんなよ、こんな所で。そうか、養蜂をするにしろ、先ずは情報収集が先になるのか。
「聖剣か聖弓に、エリスん所の蔵書を読み込んで貰うってのは出来るか?」
『【納得】そうですね、それが良いと思います。マスター』
身内だけで話をしていると、『止めなくて良いの?』ってな感じで、イブが俺を見る。
とりあえず放っとけとゼスチャー。
ヘイル薬効! ビバ薬効! と謳い上げてるヴィヴィアンの話を聞き流しながら、どうにかならんかねと話し込んでみるが、情報が足りないせいもあって、どうにも良い知恵なんざ浮かんでこないな。
ああ、入り口前のミカ達が暇そうに欠伸してるわ。あまり待たせても可哀そうか。
てか、むしろこの女は知らんのかね? 蜜蝋の代わりになりそうな物とか。あー、そもそもコイツの知恵を借りるって話でここまで来たんだったわ。うっかりうっかり。
「常温でゲル状の油脂とか知らんか?」
「突然話をぶった切る!? と言いますか、あたしの話聞いてませんでしたね!! あたしと植物と薬効について論争を交わしに来たんじゃないんですか? だとしても、最低限話に付き合うのも礼儀じゃないんですかね? 同好の士が来たのかと思ったら、あたしの知識だけが必要だったんですね!! 必要なく成ったらポイですか? ひどいですよ!! これだから男は!!」
ひどいも何も最初からそのつもりだ。いつから、俺達が同好の士だと勘違いしていた?
自分の好きな事の話に成ると饒舌に成るのは、この手のマニア気質の奴はだいたいそうだからな。興味も関心も無い話なら流してても誰も困らんのよ。せいぜい話してる本人の喉が渇く位か?
気持ち良く話してる内は面倒がないしな。
「ひつような、しょくぶつの、じょうほう、もらいに、きた、だけだ、よ?」
「おふう……」
不必要な話なんかいらんと幼女にバッサリ切られてヴィヴィアンが膝をつく。正論だし、間違っちゃいないが、この手の面倒くさい輩は、自分が必要とされてないとか思うと途端に拗ねだすから、もうちょっとオブラートに包んでやんなさい。
「あたしの話を聞きたくないなら、自分達で探せばいいんですぅ!!」
ほらな。
『【提案】聖槍の魔法で必要な知識だけ吸い出せば良いんじゃないですか? マスター』
『【賛成】だよねー。客観視できていない推論をまるで『これ以外の正解はない!!』みたいなテンションで話されると、正直、鬱陶しいのデス』
「それって、問題なく知識だけ抜き取れるのか?」
『【肯定】ちょっと意識の混濁が起こる程度なのデス』
「ヒッ!!」
ダメじゃん。




