居座る気満々なのです
防備を固めるのは騎士団やら兵士の強化以外にはあんまりできないんよね。外壁を強化した所で、冒険者と商人の行き来で外貨を獲得している関係上、領地への出入りをあんまり制限出来んのでなぁ。
まぁ、後、出来る事と言えば、コボルト情報部に周知をして、今まで以上に一見さんの監視を強化して貰う事位か。外部の情報については、今まで通りエクスシーア商会の情報網と、業腹だけどルールールーの方に、ルーガルー翁の助力をして貰うってぇ約束を取り付ける位か。あんま、あの爺さんに借りは作りたくないんだよなぁ。
自力の情報源を増やしたいが……冒険者やってる孤児院の子等がそろそろ、出稼ぎが出来るくらいまで育ってきてるし、そっちの伝手を使える様にするかなぁ?
出来るだけ手は打っておきたいが、即効で結果の出る手段ってのも、あんまりないからな。まぁ、通信機の方も結果が出て来てるみたいだし、そっちにも期待かな?
そう言や、マトスン紙ヒコーキ地獄に突き落としといたけど、あれからどう成ったんだろう。最近見て無かったから頭からすっぽり抜けてたわ。
まぁ、大丈夫だろうとは思うけど、変態だし。
それはそれとして、ヘンリエッタ王女をどげんかせんといかんと思うんよね。
チラリと、執務室のソファーでキャルとイブからお茶を淹れて貰いつつ、当たり前の様に寛ぐヘンリエッタ王女と女騎士に視線を送ると、その視線をどう解釈したのか、気が付いたらしい王女が、ニコリと笑みを浮かべた。
「トール様の側仕えとして、派遣されて来たのですから、お好きな様にお使いいただければ……このケーキ、甘さのバランスが絶妙ですね! 生クリームとマッチしています!」
「そう? ……ですか? へへ、今回は、特に上手く焼けたと思うんだよねぇ」
変に言葉に含みを持たせるなや。
そんな俺の視線をマルっと無視して発した王女の言葉に、そのケーキを焼いたキャルの相好が崩れる。マリエルはマリエルで、それまで至上の幸福といった表情でモグモグとしていたが、俺がヘンリエッタ王女にジト目を向けて居る事に気が付くと、それをどんな風に勘違いしたのか頬袋に詰め込んたケーキを慌てて飲み下し、これでもかと悔しげな表情を浮かべて口惜しそうに言葉を吐いた。
「ヘンリエッタ様に情欲にまみれた視線を!! ただでさえ王女が一辺境伯の側仕えと言う恥辱を受けていると言うのに、その上堂々と視姦まで!! クッ殺せ!!」
「よし、帰れ」
鼻の頭に生クリーム付けた、そのままで、聖王国まで。
そんな駄騎士の飼い主であるヘンリエッタ王女の方はと言えば、キャルの作ったシフォンケーキを優雅に口に運びつつ、その上で褒めてやる事も忘れないと言う、何と言うソツの無さか! 俺の側仕えの為に来たと言いつつ、当たり前の様に家のメイド連中を使いこなしやがる!! もう、“人を使う”って事に、これでもかと言う位に慣れてるってのがありありと分かるわ。全く、これだから王族は!!
これが側仕えと言う名の婚姻政策要員の実力と言う訳か! あっと言う間に家のメイド達を手懐ける手際、鮮やか過ぎて、もはや草。
「トール様が『帰れ』、と、おっしゃっていらっしゃいます。貴女は国にお帰りなさい」
「そんな!! クッ殺せ!!」
ヘンリエッタ王女に言われた女騎士が俺をキッと睨んで来る。
「いや、おまいもだよ王女さんや」
「返品不可能ですので」
何だよ『返品不可能』って。




