修正してやる
ピエール達に伝えたのは、ある意味この世界に隠されていた真実。
魔族は実在していて、様々な場所で暗躍していると言う事。魔族は邪神に【加護】を与えられた存在であり、その【加護】を得る為に活動している邪神信奉者が存在していると言う事。そして、その邪神信奉者は、魔族の手先に成り得ると言う事。
魔族の目的は、【オド】と呼ばれる、生きとし生きる者から発せられるエネルギーを貪る為だと言う事。
「ベリアルは、そんな魔族の一人で、聞いた話だと80の軍団と72の配下が居たらしい。まぁ、今は、どうなっているかは分からんがね」
これに関しては増えているかもしれないし、減ったままにしているかもしれないからな。
で、当のピエール達は、どう反応したら良いか分からないと言った様子。
まぁ、魔族なんて、一生の内で会うか会わないかってか、基本、普通に生きてれば絶対と言って良い程、出会う事なんざ無い相手で、半ば御伽噺の住人の様なものだからな。
いや、アレに相対してみれば、御伽噺なんて可愛いもんじゃねぇって理解出来るだろうけど。
何と言うか、具現化した悪夢って感じ?
人間体と魔族体は兎も角、怪人体に至っては、魔族体の状態を無理やり人型に収めたって様な、無秩序で冒涜的な人塊って様相だからなぁ。まぁ、ナイトメアナイトメア。
「相手の事はきちんと把握しておかないと、そもそも情報の精査も選別も出来んだろうに」
「で、ですが……」
「実際、騒ぎを聞きつけて俺の領地にまで来たみたいだけど、アレ、解決済みな上、裏で動いてたのフィニクスってぇ魔族だったから、ベリアルでは無いんよね」
何か言いたそうだけど、間違った手段で正解を引き当てるなんて芸当が出来るのは、それこそ主人公補正持ってる様なチート野郎か、とてつもなく神に愛された豪運かの二択だからね?
「それでもピエール様は結果を出しています!!」
口を噤んじまったピエールの代わりと言っちゃなんだが、神官の女性……サニエさんが、そう口を出す。
結果、ねぇ。
「って事はベリアルを倒したって事で良いのか?」
「え?」
俺の言葉にサニエさんが呆気にとられた様な表情に成った。
「お前たちの目的は【魔王】の討伐だろ? 【魔王】ってのがベリアルであるなら、その結果を出したって言う事であれば、それはベリアルを倒したってぇ事だろ?」
「そんな、揚げ足取りを!!」
「あのさ、俺は別に、今までお前らのやって来た旅と、その間に合った色々な事を間違ってるとも無駄だったとも言わんよ」
その事で助かった人間も救われた人間も居るっぽいし、そんな事にケチなんざ付けんさね。たださ、それってピエールの目的とは違う事な訳じゃん?
「【魔王】の脅威を目の当たりにしての討伐の旅であるなら、その【魔王】を追うのが本筋だし、例えば、その過程で人を救っているのであれば、それは素晴らしい事だけどさ、そもそも、【魔王】の足跡さえ見つけられてないってぇ事なんだから、そのやり方が間違ってるってぇ事だったんじゃないのか?」
俺の言葉に二の句が継げない様子でピエールが俯く。恐らく、最初はベリアルの脅威にに対する義侠心で立ち上がったんだろう。
で、今の方針の指針と成った、『とにかく騒ぎに成って居る場所に行く』的な事を繰り返し、その過程で人を助け、その助けられた人間や、それを見て志に賛同した人間なんかが、今のパーティーメンバーなんだろう。
ただ、その方針で人を助け、感謝され続ける事で、目的がお題目に成り下がって、その目的が騒動に顔突っ込んで、人を助けるって事に成って行ったんじゃ無いんかね?
で、正しい事をやってるんだからって、自分達の事を正当化しつつあった。
まぁ『【魔王】討伐は正しい。その過程で人を助けるのは感謝もされるし正しい。正しい事を行っている自分達も正しい。だから、自分達の行いは正しい』みたいな?
見た所、まだ軽度ではあるけど、これが拗らせっちまうと『正義である自分に追従しない者は悪だ』って所まで行っちまう。
もっとも、少っしばっかり目的を忘れかけてたみたいだけどさ。




