まるでラノベの様に
あの、魔導帝国の事件から1年経ってる訳だが、この世界の移動速度やら何やらを考えると、ピエールの行動は決して遅いって訳じゃ無い。
この街の冒険者連中にしたって、やもすれば、魔導帝国のこの話を初めて聞いたってぇ人間も居ると思うしな。
その間にコイツは、【魔王】討伐の為の仲間集めて、様々な冒険をして、サウペスタ王国の王女さんに見初められたりして、今日、ここに至る、と。
正当ファンタジーノベルの主人公かな?
「まぁ、【魔王】討伐の為に旅してるのも、その為に仲間を募ってるのも分かった」
だが……
「俺が従者に成らなきゃいけないって事にはならないよな?」
話を聞いたから、当然の様に従者に成ると思ってたのか、ピエールが驚いた表情に成る。
俺の言葉に、彼の仲間達の方はと言えば、憤りを覚えた様で、俺に対する怒気が強まったが。
「わん?」
「ワオン!!」
「むっ!!」
『【憤懣】どなたに無礼を働いてるのか分かって居ない様ですね?』
「プチっと行っとくぅ?」
『ねらいうつぜぇ~』
よし、おまいらももちつけ。
まぁ、態度で言ば、俺の方のが有り得ないってぇ流れだが、俺にした所で、早々、頷けない理由って物が有るんよね。
「支援が欲しいならしたって構わんが、旅について行くってぇ事は出来ないな」
「な、何故だ!! 世界の脅威なのだぞ!! あ、もしかして君の仲間達を置いて行く事に成ると思ったのかい? ハハ、そんな事はさせないよ、君の仲間ごと参加してくれて構わない!!」
そう言って、俺の家族に視線を送る。
……その瞳に、若干の劣情が籠もって無ければ、もっと全体的に信用してやっても良かったんだがな。
志的には、全てが嘘ってぇ訳じゃぁ無いんだろうがね、その視線で色々台無しだわ。
いや、分からんでもないんよ? 見た感じ十代半ば。所謂『やりたい盛』のお年頃だろうし。
前世思い出しても、俺だって仲間内で猥談ばっかやってた頃だ。そんな真っ盛りな青少年が、自分を慕ってくれる美少女ばっかりが周囲に居る、なんて状況に成っちまってればねぇ。
いやまぁ、前世でもそう言う事には縁の無かった俺が言っても、説得力はないんだろうけんどもよ。
ただ、そんなピエールの年相応な視線に気が付いてるのか居ないのか、彼に共鳴してそうな冒険者達も、結構居るみたいだな。
『オレも仲間になるぜ!』とか、『俺達のパーティーも連れて行ってくれ!』とかって言ってるオッサン達がさぁ。何かピエール、アルカイックスマイルでシラっと流してるけど。
いや、俺がコイツの従者に成らないのは、コイツのスケベ心が見え隠れし過ぎてるからってぇだけな訳じゃ無いんだがね。
そもそも、立場的にってのもあるし、聞いてる感じ、【魔王】に関しての情報、ほぼ持ってないだろ? コイツ。
情報も無しに、勘であっちにウロウロ、こっちにウロウロと動き回るだけの様な、終わりの見えない旅になんざ出られませんって。




