フラグはとっとと片付けるに限る
そんなわけで、俺の方の依頼は一旦終了だな。エリスの方からは全貌を解明するまではとか言われたが、そう何日も地面に潜ってもいられんのだよ。
あ、でも、あの飛空艇だけは探索したかったが……残念だ。
だが、雲海が見えていたって事は、高い山とかそう言う所を探せば見つかるかもしれないな。
……うん、言ってて無茶な事だって思ったわ。手掛かり殆どなしで未だ全容すらわかってない世界のたった一カ所を探すとか無理ゲーだってばよ。
しかも今ん所、そんな暇なんざねぇっちゅうの。
だが、そうだな、例えば何某かの商会でも起こして、教会運営の金銭的な心配がなくなれば冒険の旅ってのも悪かねぇかな?
まぁ、そんなのは色々な問題を解消した後って話になるがな。
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「だ~め~じゃ~!! もっといるのじゃぁ!!」
「我が侭言ってんじゃねぇよ。俺にも生活って物があるんだよ」
2歳児の腕にしがみついてギャン泣きするゴスロリ女王。
いい加減、公都の方に帰るって言った俺に対する女王の反応がこれである。ギルド便で、グラスん所にアロエやらヘチマやらみたいな植物について情報が無いかって話をしたら、それに詳しそうな人物の心当たりについての返事が来たんだよ。
なら一旦、教会に帰って、話をせにゃならんだろう。こう見えても孤児院経営者なんだからな。
それ以外にも、マトスンからも機織り機についての質問とか来てたからな。そっちも見ないと行かんのよ。
マトスン、ファティマに対してセクハラしてるだけの男じゃないって事、そろそろ見せんとあかんしな。
お土産として王都の小物やハンカチ、植物油なんかも買ったんで、新鮮なうちに運んじまいたいって事も有る。
何か問題が有ったら、聖武器ネットワークですぐに連絡できるんだから、いい加減放してくれんかね?
そんな事を思っていると、ゴドウィン候がなんかエリスにゴニョゴニョ言ってたかと思ったら、満面の笑みで放してくれた。
これ絶対、何か企んでるパターンだよな? 放っておくと面倒な事になるタイプの。
そう思ったが、ゴドウィン候はゴドウィン候で『大丈夫だ』ってなジェスチャー。
今更、彼が敵に回るとも思ってないが、イマイチ腑に落ちんのも確かなんだよ。
まぁ、これ以上追及したところで口割るとも思えんし、取り敢えず保留にするしかないかね。
門外に出てイブがラファに跨る。俺とファティマは自分の足だ。もっとも、俺はオファニムに乗ってるわけだから、まったくの自力かと言えばそうでもないんだがね。
「早く戻ってくるのじゃぞ!!」
いや、エリス、俺のホームは公都だからな?
そんな声を背に、俺達は公都への帰路へと旅立った。
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と言ってから一日半ほどでまた戻って来たぞ!! 魔人族国王都!!
しゃあなかったんや!! まさか走って行って半日も経たずに盗賊に襲われる馬車を発見するなんて思わんかったんや!!
それも公爵家のお嬢様。エリスのハトコだそうな。
戦後……ゲフンゲフン。邪竜襲来のせいでバタバタしてた事も有ってエリスの戴冠式がまだだったんよな。
俺の見てる限りだとちゃんと政務こなしてるから、そんな意識も無かったんだが、そう言えばそうだったわ。成程、ゴドウィン候が『姫様姫様』言ってる訳だよ。まぁ、あのおじいちゃんなら、戴冠式後も『姫様姫様』言ってそうだけどもよ。
で、公爵家のお嬢様、その戴冠式に出席する公爵様に先駆けて王都入りするつもりで来たんだが、見事に盗賊に囲まれちまったらしい。
それがただの盗賊なら、護衛騎士でもなんとかなったんだろうが、件の邪竜のごたごたの時に王弟側の傭兵だとか周辺諸国から借り入れた兵とかが野盗化しちまった輩で、結構な戦闘力の有る相手だったっぽいんだわ。
嫌だねぇ、野生の傭兵ってさ。
で、有象無象の塊な盗賊と違って、組織立った戦闘のできる野良傭兵共相手に、ジリ貧だったところで、俺、参上!! ってな訳。
そもそもが王弟側の戦力だった輩なんで、俺の黒鎧が出て来たって事で悪夢の再来な訳だな。
それはもう見事な敗走っぷりだったが。その上で相手が悪かった。何せ今回、犬達が一緒ですから。“狩り”は得意なんで!! 残念!!!!
そんな野良傭兵30人っぱかしを数珠つなぎで荒縄で繋ぐまでは良かったけど、公爵令嬢さんからねだられて、護衛の騎士さん達から「是非とも」と同行請われての今。
俺等が走れば数時間なのに普通に馬車だと一日ちょっとかかるってマジ受けるわ。
まぁ、こう言った上級貴族は途中の町で少なくないお金を落とすのが義務って側面もあるらしく、態々町での一泊とかしたせいもあるんだが。
その間、公爵令嬢さんに話をねだられるねだられる。
「自分護衛なんで」って外を歩く方に強引に入って旅路を行き、宿も貸し切りだった事を幸いに、「恐れ多いと」断って、態々別の場所を取っての休息。
そもそも俺、他者が居る所ではオファニムから出れねえんだってばよ。
で、王都の門まで送った後は「我々はこれで」って事で、盗賊の賞金も受け取らずにとんぼ返り。
公爵令嬢様は、何か色々叫んでいた様だけど。
令嬢としてその態度は行儀悪くねぇか? エリスもそんな感じだったから良いんか?
まぁ、半年と経たずにエリスの戴冠式があるって事でそん時は『冒険者のトール』として、正式に出席させられそうだって事を確認。
何せ『冒険者のトール』は邪竜討伐の立役者にして、王と王弟との和解の立役者だからな。
居ないって方が失礼になりやがる。
成程、「早く戻ってくるのじゃぞ」ってのはそう言う事か。
イブ連れての王都旅行については問題ないが、今回の事で、やはり俺に護衛依頼は無理だなって事を再認識したわ。
次に魔人族の王都に来る時は、家族水入らずでだな。うん。




