マイホームへようこそ
幼女がモゴモゴと干し肉を齧っている。
腐らない様に乾燥させただけで、塩すら擦り込んでないんだが、まあ、口に合った様で何よりだ。
名前を訊ねたのだが、首を振られてしまったのは、名前がないからか、それとも言いたくないからか……
多分、前者なんだろう。
かく言う俺も、前世ならともかく、今は名前なんかないしな!
ともかく、固形物を食べる住人が増えてしまった。しばらくは貯蔵分で賄えるが、どうにかしないと。
干し肉だけは結構あるんだがな! 主にウリが鳥を取り過ぎたせいでな!!
そんな事を考えていると、干し肉を食べ終わったらしき幼女がこっちをジッと見ていた。
頭はボサボサで、体のどこもかしこもガリガリで薄汚れている。
身に纏っている布切れも、染みと垢とでガビガビだ。
短絡的な事をしてしまったと言う思いはあるが、連れて来た以上、面倒を見る覚悟はある。
とにかく、水浴びをさせねば。
女の子に言うのも何だが、これ以上は俺が我慢できない。臭い的に。
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大きめの布をワンピースの様に身に羽織った幼女が、まるで自分の尻尾を追い掛けるバラキのようにクルクルと回っている。
水浴びの為にひん剥いたときは、怯えた様な目をしたが、単に体を洗ってやろうとしただけだと分かってからは、落ち着いたらしい。
こっちは乳児なんだがな。まぁ、そう言う経験をして来たって事か。胸くその悪い。
表情こそ変わらないが、あれは嬉しがっているんだろう……多分。
うん、もう少し裾部分を長めにした方が良いな。
翻る裾が色々と危ない。特に今は下着なんてものも着けて無い訳だし。
そう思って布を織っていると、幼女が俺の作業を興味深げに覗き込んでいた。
「ん? これか? これは布を織ってるんだ」
針と糸が使えれば、そのまま延長してやる事もできたんだろうが、残念、ここには糸はあっても針がない。
どこかで調達するにしたって、どこにあるかが分からない上に、金もないから買ってくる事もできない。
なので、裾を長目にしたいなら、大きな布を織るしかない。
俺の手製の織り機は、縦糸を吊るして横糸をその間に通していくと言う原始的な物。
かなり荒い布しか織れないが、それでも、無いよりは有った方か良い。
俺にもう少し技術力があれば、織り目の細かい旗織り機も作れるんだろうが……
そう思っていた俺に天恵が閃いた。
「あ、編み物にすれば良いじゃん」
どうせ自分達が着るだけで、商品として卸す訳じゃない。
同じ程度の目の荒さで良いなら、何も布地にこだわる事はなかったな。
手をポンっと打った俺に、幼女がキョトンとした視線を向ける。
「あーっと……う~ん……やっぱり、名前がないってのは不便だな」
呼び掛けようとして、幼女に名前がない事に気付いた俺は、成る程、これは不便だと言う思いを深くした。
彼女しか居ないのなら良いが、基本、ミカ達の内誰かは俺と一緒にいる。
そんな時、まさか「おい、幼女」とか呼ぶわけにも行かないしな。
そうなると、俺自身も名前があった方が良いか。
自分に自分の名前を付けるってのも奇妙な感じだが、他に付けてくれる存在も居ないしな。
さて、どうしよう。この世界の名前の傾向なんて知らんし、前世のソレを参考にするか。
確かに、俺は転生したかもしれないが、それでも、馴染みのある呼ばれかたの方が良いだろう。
「大崎、徹。トール……うん、トールだな」
ちょっとイントネーションを変えただけだか、こんなもんだろう。
どこぞの雷神みたいでカッコ良いではないか!
「俺の名前はトールだ。お前、名前は欲しいか?」
俺の問いかけに、幼女がキョトンとする。だが、意味を理解したのか、一度大きく目を見開いた後、コクンと頷いた。
「そうか、なら、お前の名前はイブだ」
神話つながりだな。俺ではなくミカ達とだが。
最も、最初の女であるリリスってのも考えたんだが、あれはアダムと喧嘩別れしたって話だから、イブの方にした。
ギリシャ、ローマ神話から持ってきても良かったんだが、神様の名前もどうかと思うし、あの神話の人間の女性って、どうにも録な目に有ってるイメージがないからなぁ。
イブの方はと言えば、何度も口をモゴモゴと動かしていたが、やがてニッコリと俺を見て笑った。多分、気に入ってくれたんだろう。
てか、何気に初の笑顔だ。
うん、やっぱり、子供は笑っていた方が良い。
今は俺も乳児だがな!!
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ガブリ達を迎えに行った後、犬達にイブを紹介すると、みんな興味津々と言った感じだったが、特にラファが、イブのあちこちをクンクンと嗅いで回っていた。
逆にバラキは、俺の後ろに隠れる様にして、あまりイブに近寄らなかったが。
コイツ、こんなに人見知りだったんだな。
そしてイグディは、少し鼻を効かせた後はトテトテと部屋の角に行ってアクビを1つして横になる、安定のマイペースっぷり。
ともあれ、イブが無事に家族として受け入れられた様で何よりだ。
夜も更けてきた。とりあえず寝る事にしよう。寝床にしている藁とシーツをもう一組出して、イブに渡す。残念ながら、隙間なんかを塞いだ部屋は一部屋しかないから、雑魚寝で勘弁してもらう事にする。
俺がミカを枕に布団を被ると、いつもの様にバラキが潜り込んできた。
セアルティがミカに寄り添い、ガブリがイグディにのし掛かる。
ウリとラファが互いに寄り添って目を瞑った。
イブが、どこに行ったら良いか分からないらしくウロウロしている気配がしたので「適当に寝てくれ」と声を掛けた。
程無くして瞼が重くなる。
(こんな所は赤ん坊だよなぁ)とか考えている内に、俺は眠りに落ちた。




