ギルド長のお願い
俺が直接対応しても良いんだが、報告書を出すってだけじゃなく、ギルド長が来たって事は、俺に“お願い”が有るからってぇ事だろうな。
まぁ、内容については想像は出来るんだが、それでも『ギルド長自らが、領主にお願いした』ってぇ体面が必要なんだろう。ってか、その体面ってのは俺のメンツなんだろうけど。
何せ、本来なら、領主が采配を振るう事に成る懸案な訳だしな。
「……つまり、この古代遺跡については、ギルドに任せてほしいって事かな?」
「はい」
要は越権行為。古代遺跡の管理まではやろうとは思ってないだろうが、初手で、古代遺跡の探索を全面的に任せて欲しいってのは、つまり、領主には任せられないと言ってるも同様な訳だ。
建前的な俺の履歴では『子供の頃から古代遺跡で修行して来た』って事に成ってる。にも拘らず、『お前に任せてなんぞ居られんのだ!』と言っているも同様ってのは、領主に喧嘩を吹っ掛けてるも同然なんだが……
「良いよ、俺も忙しいから、代わりにやってくれるってのなら、その方が助かるし」
「え、良いので?」
俺の軽い返しに思わずと言った感じで聞き返すギルド長。これがグラス辺りとだったら、真剣勝負に成っただろうが、このギルド長の人柄は、俺も良く知っている。
決して他人を信用しないってぇ感じの人間じゃ無いし、その上でのこうしたお願いに来たって事は、多分だが、この所ってか、この街が出来てから常にある、冒険者の流入についての問題なんだろう。
この街は“大森林”内部に有るって事で、魔物との戦闘依頼も多く、この街への道中の護衛依頼も多い。街道を繋いだってぇ事も有って、行商人の行き来も多いからな。
その為に、街に移住して来る冒険者の数も多い訳だけど、その為に依頼そのものの数が不足してるってぇ事なんじゃないかな?
いや、常設依頼は多いのだとは思う。そもそもが大森林内部に作られた街だ。他よりも森の深い所でしか取れなかった採取物が、他の場所よりも容易に採取しやすい。そもそもこの街に来る行商人も、その辺りの物を見込んでるってのも有る訳だし。
ただし、そもそもが深い場所だって事も有って、ここにいる魔物もそれ相応に強い奴らが多い訳だが。
要するに常設の買い取り依頼は多いが、それ以外の依頼はそれ程多いって訳じゃぁ無いって事だな。新興の街って事で、この街の周辺に衛星街が多いって訳でもないからなぁ。
付属する街やら村谷らが少ないって事は、そこの街やら村谷らから依頼が出される事もないから、その分依頼は少なくなる。まぁ当たり前だ。
常設依頼は、採取やら討伐の難易度でのランク分けこそされているものの、実際、偶発的突発的遭遇である場合が多くなる。それが、依頼にある得物を探してた場合だったとしても、な。
例え、『角猿の皮』とかって常設依頼が有ったとしても、そもそも角猿に遭遇できるかどうかも分からない。
もしかすれば、角猿を探してて角熊に遭遇するってぇ危険も有るだろう。
だが、古代遺跡はまた別だ。ある程度の攻略手順は確立してるし、難易度設定もしやすい。つまりは安定した依頼になる訳だ。まぁ、常設依頼のソレに比べればってぇ事に成る訳だけど。
だからこそ、ギルド長は『私達に任せてください』とお願いしに来た訳だ。本当なら、木工ギルドや石工ギルド何かに話して、その人員を手配して、調査する文官やら研究者も手配して、その上で護衛として冒険者に依頼するってぇ手順になる訳だ。
もっとも、その護衛の部分を兵士に置き換えたって、問題は……ほぼない。いや、普通ならその分の人数が減る訳だけど、家の場合、その辺だぶついていて、家の領地から繋がる街道の見回り迄やってるんだぜ? それも自主的に。いや、その分お給料も出してるよ? ブラック良くない。
なんで、古代遺跡の護衛に手を回しても問題は無いんだが、その上で、遺跡の探索全般を『任せて欲しい』とギルド長は言ってる訳だ。
まぁ、こっちはやって貰えるなら全く構わんのよ。
それに、家に来る冒険者達にも宝物庫の解放での財宝の発見とかって役得が有っても良いとは思うし。一攫千金は冒険者の夢だよね。
「ただ、それらは本格的な調査をする前の“予備調査”って事にして貰うけどさ」
つまり、最終的には俺がケツ持ちをするけど、基本は自己責任でってぇ話。その上で、本調査が有るからダラダラ先延ばしは許しまへんでって釘は刺しておく。具体的には4、5年位で終わらせてくれって感じ。
「はい、有り難うございます」
まぁ、頑張ってくれって事で。




