余裕のない奴は早死にするぜ、と
予想に反してと言うかあの一件以来、俺の親を名乗る人間が来る事は無かった。だとすると、本当に何の為にブレイズ氏に俺の情報を渡したのかってぇ話になる。
普通に純粋な好意だった? 俺が考え過ぎていただけで、魔族とは関係が無かったってぇ事なのか? もしそうだったとすると、ブレイズ氏には多少悪い事をしてしまったな。いや、第二夫人の機嫌的な事を考えると、ブレイズ氏を受け入れるってぇ選択肢はあり得なかったんだけんどもさ。
そもそも、俺は、ブレイズ氏が本当の俺の親じゃ無いんだと知っているからなぁ。
第一に、ブレイズ氏、俺の公称年齢の事は知らなかったんよね。なんで、俺の年齢が17才だと聞き、俺が息子では無いって事に納得してくれたんだがね。
つまりは外見年齢の10才前後だと思ってたらしいし、息子さんと生き別れたのも、その位の時の事だそうな。
まぁ、本当は俺は7才なんで、どの道人違いで間違いないんだけんどもさ。
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「トール、様、来る」
「はい?」
執務室で、いつもの様に仕事をしていると、イブが入って来たと思ったら、そう言って来た。いや、今、仕事中なんだけんども?
いつもなら、俺の仕事とかの邪魔はしない。てか、何時も丁度良いタイミングでお茶を淹れてくれたりと、メイドとして申し分ない働きをしてくれて居るんだが、ただ、今回は意志が固い様で、何時もと同じジト目の様にも関わらず、その瞳の奥には確固たる意志を感じさせている。
俺が『どうしたもんかね?』ってな意味を込めて、俺の後ろに侍っているファティマに視線を送ると、彼女はコクリと頷いた。
いや、『【肯定】ご随意に』とかって、視線を返されてもさ、俺的には『どうしたら良いか?』って意味じゃなく『どう説得したら良いかな?』的意味で視線を送ったんだが!?
「はぁ、しょうがないか……」
溜め息交じりで席を立つと、イブが嬉しそうに頷いた。ソファーでゴロゴロしてたラミアーが、それを見て背中におぶさって来る。最近思うんだが、コイツ、吸血鬼じゃ無くておんぶお化けじゃないかな?
「んっ」
「はいよ」
イブが手を差し出し、俺がそれを受ける。足元に居たミカとバラキも、立ち上がって、俺の足に体を摺り寄せながら一緒に着いて来た。
「あ! いらっしゃいませ!! トール様!!」
「おっ! 待ってたよ!! トールちゃん!!」
イブが俺を連れて来たのは領館の食堂で、その中ではティネッツエちゃんとキャルが、せっせと出来上がったばかりっぽい料理を運んでいた。運んでいたんだが……
「量、多くね?」
テーブルの上にはこれでもかと言う程大量の料理。てか、その上でワゴンの方にもまだ料理が乗っている。
「たくさん、食べ、る」
「うん?」
「イブさんが、美味しい物をいっぱい食べれば元気が出るって言ってましたのでっ!!」
「そうだよぉ。トールちゃん、最近、難しい顔ばっかりしてるんだもん」
……あぁ、俺の知らない内に、色々と溜め込んでたっぽいわ。それも、周囲の皆に分かる位に、な。確かに、この所、黒幕の魔族関連で色々とあった所為で、少っしばっかり余裕が無くなってたかも知れんな。
何か、身の回りの事全てに、黒幕の魔族の手が伸びている様な気がして、少々疑心暗鬼気味だったっぽいわ。
いかんな、こんな事で皆に気を使わせるのは。反省反省。
取り敢えず、腹いっぱい食べて、肩の力を抜こう。気を張り過ぎてても、視野狭窄に陥っちまうしなぁ?
「イブ、有り難うな」
「んっ」




