話を聞いたんだけどさ
結論から言えば、ブレイズ氏に俺の事を吹き込んだのは、なじみの行商人だと言う事だった。彼の住む村に、1ヶ月毎に来ては取引をする人物で、ブレイズ氏自身、幾度となくお世話に成って居るし、古くからの知り合いって事も有って、信頼を置いて居たらしい。
それでも、今回、こんなに簡単に話を信じて俺の領地にまで足を運んだって言うのは、正直かなり異様な事だと思う。
『話を聞いて、トール……様が待っていると思って、居てもたってもいられなくなったんだ』とは、そんなブレイズ氏の弁。
何でも、俺が爵位まで得たのは、生き別れの両親を探す為で、自分が有名になれば、そんな両親の所まで、自分の噂が届くと思ったから……って言う事らしい。
噂での情報伝達なんてのは、酷くあやふやな伝達手段だ。何せ、人の記憶ってのは、その人間が記憶を保持しやすい様に最適化されるからな。
だからこそ、噂話ってのは広まるにつれ、その細部どころか、下手すりゃ大本の部分すら、変化して伝わっちまうってぇ事が多々ある。
以前に【ドラゴンスレイヤー】を騙るパーティーを見た事が有る。そもそも、その【ドラゴンスレイヤー】って物自体は、【邪竜】を倒した時の俺達の事を指していた訳だが、その時出会ったパーティーは、やはりその時の俺達とは微妙にパーティー構成だったり性別だったりが違っていた。
つまりは、彼等にとって理解しやすい形に変化した結果だったんだろう。
ブレイズ氏の出身は、デストネーチェ王国ではない。
元であっても冒険者だったってぇ事で、その辺りのフットワークは軽いんだろうけど、それでも別の国まで旅をするとなれば、結構な労力も費用も使う。
冒険者がフットワークが軽いと言っても、国を跨ぐ場合なんかは、当然の様に護衛依頼を受けての事だし、冒険者って事でのギルドと言う一応の身元を保証する組織が有っての事だ。
そう言った後ろ盾のない平民の越境は、関所でも色々と調べられるし、その費用も高い。それ故に平民が旅をするってぇ事に対する敷居は高めな訳だ。
もっとも、平民で、特に農業やら畜産に関わってる人間なんかは、通常、旅に費やす時間を捻出するのも難しいんだけどね。
あれって、基本、休みとか無いし。
そんな“元”冒険者、“現”農家のブレイズ氏が、自国を出てまで俺の領地に来たのは、彼が受け取った情報がかなり信憑性が高いと思ったからだろう。
それも、『友人の知人が酒場で吟遊詩人が歌ってた様な事を聞いたんじゃ無かったかと嫁さんの母親が隣の奥さんから聞いた』的な情報じゃぁ、動けはしないだろうしなぁ。
それこそ、何年も旅をしながら探してるなら兎も角、既に農業に従事してる人間がだよ? 普通に生活してるってぇ時点で、ある程度の諦めは有るだろうし、恐らく似た様な噂なんかも聞いてるだろうから、情報そのものにも疑惑を持つし、その吟味にも慎重に成ってるだろうさね。
にも関わらず、今回は面会を希望する位にその情報を鵜吞みにしちまってる。その上、その情報が、かなりの確率で正確だってんなら、それは、情報そのものが、また聞きの様な不確かな物じゃぁないと、確信できる物でなければいけない訳だ。
例えば、その情報を持ってた者が、直接見たとか、あるいは信じ込まさせる手段を持っていたってぇ場合とかな。
もっとも、今回に関しては外見と名前以外は偽情報な訳だがね。
特に俺、親とか探してないし。爵位貰ったの成り行きだし。
だとしたら、恣意的に、そんな情報を流したヤツが居るってぇ事に成る。
今回、ブレイズ氏が真っ先に俺の所に来たんだと考えると、これはただの始まりでしかなく、この先も同じ様な事が続くってぇことだろう。
果たして、コレが単なる嫌がらせなのか、それとも、何らかの悪意を持っての事なのか……
さて、どう成りますかね?




