初対面の距離感ってあるじゃんか
「おお!! 覚えていないだろうが、わたしがパパだよ!! 我が息子よ!!」
赤褐色の肌に、赤味を帯びた黒髪。高い鷲鼻に分厚い唇とがっしりとした体躯。恐らく革製のややゆったりとしたズボンと革製のチョッキを着込んだオッサンが、感極まったかの様に、そう言った。
俺の館の小さい方の応接室。と言っても10畳程度は普通にある感じなんだが、俺とオッサンが、コの字型に配置されたソファーで向かい合わせで座り、第二夫人が俺の右横のソファーに。
オッサンの後ろには誰も立ってはいないけど、俺と第二夫人の後ろにはそれぞれファティマと夫人の侍女さん。
オッサンは上機嫌みたいなんだが、俺の右横の第二夫人、めっさ不機嫌。まぁ、気持ちはわかる。
そんな西高東低の気圧配置の中、イブさん無表情でお茶を淹れてくれるのマジ強心臓。取り敢えず『有り難う』とイブを労いながらも、お茶で唇を湿らす。
因みに他のメンバーは隣の部屋で待機中。実の事を言えば、こっちの応接室は、隣部屋でここの話を聞く事が出来る仕様。色々と必要らしいよ? こんな小細工が。貴族って。
さてさて、オッサンを改めて見れば、肌色やら髪色は、今の状態の俺に、似通ったような感じではあるが、厳密に言ってしまえば、やはり違うんよ。
俺の今の肌の色って、どっちかって言えば赤銅色に近いからなぁ。『赤銅色のゴブリン』と呼ばれた事が有るのは伊達では無いのだよ。近しいとは思うけど。
そもそも、今の肌の色ってパッシブで身体能力向上が掛かってるからだし、それ切れると俺の肌の色真っ白に成るからね? 白子だからか、メラニン色素が仕事してくれなくて全く日焼けとかせんのよね。まぁ、目の色だけは、元も今も変わらず赤いんだけんども。
ただ、この、目の前のオッサンがよっぽど演技が上手いって事じゃ無ければ、少なくとも俺の目からは、こっちを騙そうって印象は受けない。
まぁ、だとすると、勘違いか思い込みかなんだけんどもよ。チラリと、第二夫人は不機嫌オーラ出しまくりで、ちょっとアレだから……ジョアンナさんの方を見やると、溜め息でも吐きそうな感じで微妙に首を振った。
つまりは、全く面識なんて無い、と。
「悪いが、全く記憶にないんで、初対面って事で話させて貰う。俺がオーサキ領領主、トール・オーサキ辺境伯だ。改めて名乗って貰えるかな? ミスター」
俺の他人行儀な挨拶に、オッサンは少し眉根を寄せるが、第二夫人の方は少っしばっかし機嫌を直して、『フフン』ってな感じで、オッサンの方を見た。
「なぁ、トールよ、そんな他人みたいな言い方をしないで……」
「悪いが、俺の記憶にはないと言った。そもそも、新米とは言え、俺は辺境伯と言う爵位を持ってる、れっきとした貴族なんでね、立ち振る舞いには気を付けて貰いたい」
実際、例え実際に血縁で有ったとしても、平民と貴族ではあるんだから。このオッサンの態度は不敬なんよね。
俺だから見逃してるけど、他の貴族連中が居る所で同じ事されたら、幾らこの国が上下関係に寛容だったとしても、俺はこのオッサンを処罰しなけりゃならない所なんだよ。
逆に言えば、それ位、このオッサンの態度はよろしくない。
てか、本当に肉親だったとしてもこんな対応だと不信感しか湧かんぞ? 相手が覚えて無いだろうって事が分かってて、この馴れ馴れしさは、よっぽどじゃ無ければ不愉快だし。
「もう一度言う。名乗って貰えないかな? ミスター?」
俺の態度にショックを受けた様に眉根を寄せるオッサン。
だから、名乗ってくれねぇかな? いい加減。




