神が担保する信頼
父王さんがうつ伏せに倒れてたのは、あれ、五体投地だったらしい。上位者に対する最大礼。つまりは『私はあなたの足元にも及びません』って言う意思表示。
「ク〇ムシとお呼びください!!」
「呼ばんからね!?」
え? 何? ザ・〇ーン? 兎も角、話辛いからって事で、父王さんに頭を上げて貰った訳だけど、何でか正座からは立ち上がらない様子。これでも土下座状態だった所から何とか直して貰ったんだけどさ、正座以上には足を崩さないってぇ構え。土下座だったのはやっぱりク〇ムシだったからか? その内『ピュルルルル……』とか言い出すのか?
「別に椅子持ってきて構わんのだよ?」
てか、牢屋でなくても構わんのでね?
「いえいえ、神御子様を石床の上に座らせてる以上、ワタクシが椅子に座るなど、とてもとても! これ以上の無礼など、出来る訳がございませぬ!!」
何の覚悟完了さね。
いや、別に椅子を持ってこれなかったとしても、正座じゃぁなくて、胡坐やらとか普通に座って貰って構わんのじゃが? てか、この世界にも正座って文化が有るんな。まぁ、背筋が伸びるから、見た目は良いけど、長時間正座だと辛くないんかね? それとも、何か特別な訓練でも積んでる?
考えてて何だが、特殊な訓練とか普通にやってそうだよね。いや、不敬か。
そんな事を考えながら首を捻っていると、俺の疑問を読み取ったのか、父王さんが口を開いた。
「ただでさえ、こちらの頭の方が高いのですから、せめて座り方くらいで敬意を示さなければ、申し訳なく存じますので!!」
いや、仮にも一国の王様じゃろ? 何で一個人に対し、そこまで遜るかね? 何と言うか、ここまで来ると流石に不自然に感じるんだが。
「娘に聞きました。貴方様は、“本物”だとっ!!」
「あー」
成程、【神託】の話も聞いたんね。いやまぁ、何か名指しで呼ばれてる様だったからなぁ、俺。
「高々、元老院の指名で国の神輿に収まっただけの血筋の男と、光の神に見初められた神御子様とでは天と地程の差がございましょう!!」
そう言うと、父王さんは再び俺に頭を下げる。いや、本当に敬虔な信者ってだけの人っぽいな。その割には50人近く子供作ってるけど。
あれか? 実は光教会の教義に『産めよ増やせよ』みたいなんが有ったんかね? 会う前だと、何か気に入った娘さんを手当たり次第に手ぇ付けてた、好色ジジィ的なイメージが有ったけど、何て言うか、面と向かってみると、唯々、生真面目そうな感じがするんよね。
だとすると、逆に、現状の事が納得できない部分も有るんだけんどもさ。
「【神託】によって、この国にお越しいただいたと聞き及んでおりまする。この国の……聖王国の問題を解決してくださると!!」
「いや、俺もヘンリエッタ王女から【神託】の話は聞いたけどさ、この国の問題ってのは何なんかって所から分からんので、手の出しようも無かったんよね。第一、俺が来ただけで『オールオッケー』とかってのが、そもそも意味不明だし」
問題が有って、それを解決できる手段が有る上で、俺の助けが必要だってんなら、手を貸す事は吝かじゃ無いんよね。
いや、言ってる事がお人好し過ぎるってんのも分かるし、出来れば対価を貰った方が良いってのも理解してる。
そもそも、対価自体を貰わないってぇ選択はしない方が良いしな。特に国関係を相手にする時は。獣人の王国の時は……まぁ、『貸し』って事にしてるし。
「いえいえ、それこそ、神の思し召しでございまするので。宜しければ、お話を聞いていただきたいと思っておりまする」
マジか、一国の問題って事は、つまりはこの国の弱点を晒すってぇ事だよ? 良いの? 俺、一応、他国の貴族なんじゃが。




