彼女の事情
「ヘンリエッタ様!?」
ポニテ聖近衛騎士が慌てて声を上げる。まぁ、分からんでもない。隠れ逃げていたはずの恐らく聖王国の王女様が、何処の馬の骨とも分からない俺に同行すると言う、トンチキな事を言い始めた訳だからな。
言い訳でも何でも無く、ヘンリエッタ様から見れば、俺は突然現れて追手を皆殺しにしたヤベー奴でしかない筈なんだ。
ここに至ってまで、名乗りすらしてないしな。得体の知れなさはすこぶる付きだ。
敵か味方かも分からん奴に同行するとか、正気の沙汰じゃ無いだろうさ。特に追われている身なら尚更。
だって、コイツ、俺の行く先すら知らんのだぞ? 俺達、これから、コイツ等が逃げて来た聖王国に行くってのに。
態々苦労して逃げて来ただろうに、とんぼ返りするって事に成るんだからなぁ。
まぁ、ヘンリエッタ様は、聖王国へ行くなんざ知らん訳だから、ある意味しょうがないっちゃ、しょうがないんだろうけんどもさ。
「『魔女派』の追手の事もございます!! どうかご再考をヘンリエッタ様!!」
「良いのです、マール。そもそもわたくしの目的はこの方でした。間違いありません」
「ヘンリエッタ様!!」
目的が俺? また一寸、意味不明な事言い始めたぞ、と。スピリチュアル系は、自分の中で完結しやがるから、傍から見てると意味不明に成る事が多いんよな。取り敢えず、説明してくれねぇかな?
マリエルとやらもそうだが、全く説明ってヤツをしてくれないんだが? 聖王国って、そんな感じなのか? 上意下達がキッチリしてると言えば聞こえが良いんだが、上の命令に疑問を抱かんもんなんかね?
いや、ルティシア嬢はそんな事なかった筈だから、これは、この二人はそうなんだと理解した方が良いか。
「本来なら下位の俺から名乗るのは不敬なんだろうが、話が進まねぇんでな。私はデストネーチェ王国が辺境伯の地位を賜っている。トール・オーサキ辺境伯と申します。やんごとなき御方への拝謁、至極恐悦に存じます」
そう言って礼をすると、ここで自分達が名乗りもしてなかったってぇ事を思い出したのか、マリエルが少し赤面をしながらも、口を開く。
「私はゲンゼルキア聖王国聖近衛騎士団マリエル・フォーゲンシュタインである!! そしてこの方こそ、ゲンゼルキア聖王国、第13王女であるヘンリエッタ・M・ゴッドフリード=ゲンゼルキア様です!!」
「ああ、トール様におかれましては、かしこまられる必要はありませんよ? むしろわたくしの事はリエルとお呼びください」
「ヘンリエッタ様!?」
いや、王女だけで13人も居るんかいとか、いきなり愛称呼びさせようとか無茶言うなとか色々言いたい事はある。あるんだが、それにいちいち突っ込んでたら話が進まん。それでなくても、この主従、こっちの話とか聞かんで、二人の世界作りがちだし。
「わかりましたヘンリエッタ王女様。ただ、私達は、これより聖王国へと赴こうとして居た所なのです。そちらから逃れて来た王女様が同行すると言うのは、いささか厳しいかと」
俺のその言葉に、マリエルが、我が意を得たりと『そうです!! このままこの様な者達と行くのは無理がございます』と嬉しそうに言った。うん。とても嬉しそうに。
それに対して王女殿下。
「いえ、トール様が一緒であれば、聖王国に戻っても、問題などありません!! 先ほども言いましたが、わたくしの目的は、トール様を聖王国へお連れする事なのですから!!」
はい? 一寸意味わかんないんだけども?




