テンプレイベ
公都での俺達は、『冒険者のトール』いや、今や『ドラゴンスレイヤーのトール』の庇護下にある孤児院に所属している事もあって、割りと有名人だ。
特にイブなんかは、幼い弟を懸命に育ててる健気な幼女って事で、屋台のオッちゃんオバちゃん連中のアイドルでもあったし、彼女自身も準冒険者の上、優秀だと評判の冒険者パーティー『緑風の調べ』に可愛がられてるって事でも有名だ。
そう、『緑風の調べ』、あれでも若手パーティーの中じゃ、優良株って事で知られてる。
まぁ、人格者のアルトや、魔法学校卒業者のリシェル。戦闘もこなせる斥候のユーネだけでなく、あのダンダですら優秀って事で有名人な訳だ。
もっとも、そうでなければグラスが俺に紹介とかするわきゃねぇんだがな。
まぁ、そんな些事はさておき……
「ああん? ここは子供の遊び場じゃねぇんだよ!!」
筋骨隆々の虎耳青年が俺達を恫喝している。周囲の人達は野次馬根性で興味津々に傍観しているか、厄介事を恐れて視線を逸らすかのどちらかかだ。
いや、今更こんなテンプレイベント起こされてもなぁ。
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ここ5日程、エリスに案内され、魔人族の王都を散策した。女王自身が案内ってどうなんよ? とも思ってたんだが、ゴトウィン候に、「姫様はこの所の政務続きで、随分ストレスを溜めていらして」と眉を顰められ、何とか解消してもらいたいのだと言われてしまえば、それを断るってのも悪いとも思う。
第一にエリスが一緒だと、イブも嬉しそうだからな。
ただ、ゴドウィン候、“姫様”はやめてやれ、今は“女王陛下”なんだしよ。孫を愛でる祖父かと。
そんな感じで、昨日まではエリスと一緒に街中を回って居たんだが、流石に一国のトップがいつまでも休んでいる訳にも行かない。
今日からは俺達だけで土産でも探すかって事で、俺とイブ、ミカ、バラキ、ラファ、ファティマとで街へと繰り出した訳だ。そこで、ついでなら、と、魔人族の国周辺の依頼ってどんなんがあるのかって、好奇心を満たそうと冒険者ギルド迄足を延ばしてみたって訳なんだが。
「ああん? ここは子供の遊び場じゃねぇんだよ!!」
まぁ、コレな訳だ。
「邪魔くせぇだけのガキがギルドに足踏み入れてんじゃねぇよ!!」
公都の支部で絡んで来た輩なんざ、片っ端からオスローに引っ張って来て貰ってOHANASHIをしてったんで、最終的には、そんな事をする様な輩は居なくなった。
そもそも、3歳からの子供が働いてるあの支部で、こんな事すれば、むしろ白い目で見られる。
子供達が準冒険者として依頼を受けられる様になってから、随分と街の雰囲気も明るくなったって事で、受け入れられたからだ。
だが、この魔人族の王都のギルドでは、準冒険者の年齢引き下げも、それに合わせた仕事の斡旋もやってはいないんだろう。
下手すりゃ、準冒険者なんて制度も無いのかもしれない。これに関しては、その支部での判断が大きいらしいからな。
俺を抱いたイブは、一瞬そいつに目を向けはしたが、無視をすると決めた様で、そのまま依頼書を見る方に戻った。俺が文字なんかを教えている関係で、ちゃんと依頼書が読めるのだイブは。
まぁ、魔族と対峙した事のあるイブにとっては、コイツの威圧なんざ、そよ風みたいなもんだろうしな。
「おい!! 無視するな!!!!」
虎耳が叫ぶ。正直、こういう輩の精神が分からない。立場やら何やら弁えなきゃなんねえもんがあるって事は分かるが、なぜ、自分が「気に入らねぇ」と思っただけのものをまるで鬼の首を取ったかの様に悪と断ずる事ができるんだ?
俺も気に入らねぇと思った事を排除する事は有る。だが、それが自分の“我侭”だって事は十分理解してる積もりだ。
だからこそ、コイツの様に自分の気分だけで正悪を決めつけられる様な奴の心情を慮る事は出来ない。
「聞いてんのかガキ!!」
そう言って手を伸ばした虎耳の手を俺は払う。スルリとイブの腕の中からすり抜け、地を蹴ると、顎先に掠らせる様に飛び回し蹴りを放つ。
「は?」
その言葉と共に、虎耳が白目を剥いて崩れ落ちた。
ギルド内に沈黙が広がる。
おれは。イブに再び抱っこして貰うと、しばらく依頼を確認してから、特に珍しい依頼も見当たらなかったので、そのままギルドから立ち去った。
その間、俺達に再び絡んで来る輩どころか、一言として喋る者も皆無だった。
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「随分ご活躍された様じゃの?」
俺達が買い物から帰ってきた後、エリスは開口一番そう言って来た。
「……どれの事だ?」
あの後、スリや破落戸、恫喝する貴族なんてテンプレに遭遇しまくったせいで、どれの事か分からんわ。
「……まぁ、それは良いのじゃ」
「良いのかよ」
で、結局何の事?
「うぬ、先日、この王都付近で、ダンジョンの出現が確認されたのじゃ」
「ダンジョン?」
「そう、ダンジョンじゃ」
そういえば、こっちに転生してからダンジョンなんて言葉、初めて聞いたな。
って、出現?
「え? ダンジョンってそんな突然出現するもんなんか?」
「そう言う例も確認されておるのじゃが……今回は、坑道を掘っているときに、偶々繋がってしまった様なのじゃ」
「で?」
「うぬ、それで、オヌシ様に、その調査を……」
「無理」
建前上とは言え、依頼がまだ終わってない状態で、他の仕事を受けるというのはどうなんだろう?
「実はな、今回調査する予定のパーティーが、寸前で依頼を断って来たのじゃ。なんでも、パーティーリーダーが自信を失ってしまったとかでな」
……あれ? もしかしてそれって……
「……そのパーティーリーダーと言うのが、虎の獣人で……」
あ、やべえ。




