完了
俺達は無事、魔人族の国の王都に到着した……のだが。
「俺、護衛とか全くしてねぇんだが!?」
「そこに気付くとは流石オヌシ様!!」
「おい……」
結局、この旅のさなか、俺がやった事ってえと、エリス達の話し相手くらいか?
出てきた魔物はイブとロボウィザードとで、跡形もなく瞬殺してたし、盗賊みたいなのは置き去りにしてた。
所詮人間、本気で走る馬車にゃ追い付けんのな。盗賊や山賊とか言っても、街道で商人襲ってる様な連中は、食い詰めた元村人やらまともに戦えんくなった傭兵とかだしな。
素材に関しては、跡形もなく燃え尽きてた時点で諦めたわ。
ロボウィザードが躊躇なく消し飛ばしてたせいで、イブも対向意識を持ったんか、真似して魔法の威力マシマシで放つしな。
で、イブの魔法の威力と潜在魔力に目を輝かせたロボウィザードが、喜々として【詠唱破棄】やら【遺失魔法】やら教えやがるから、さらに手の付けられない状態に。
これ、公都に帰ったら、イブに魔法を教えてくれてるリシェルが、また涙目になんじゃねぇか?
しっかし、ロボウィザード、絶対、威力フェチの気があるよな。
根本には、大きな力を見せつける事によって、その畏怖で人心を掌握する~みたいな物があんのかも知れんけど、それとは別に、高威力、高火力に対しての食付きが違うしな。
何か、ナイアガラの大瀑布とか見せたら喜びそうだよな。そのものは無くとも似たようなもんはあんだろ。異世界だし。
『【不満】君達、ちょっとヒドイんじゃないかな?』
馬車から降りて体を伸ばしている俺達んとこに、同じく降りてきた聖剣が不満そうに向かってきた。
『【文句】何故ワタシだけが、別馬車だったのだ?』
「その代わり、侍女達と一緒だっただろうが」
『【弁解】そうかもしれないが……何度かあった休憩の後、一度くらい誰かが代わってくれても良かったんじゃなかろうか? こう、親密度アップ的な意味で……』
寂しんぼか!
つっても、護衛の関係上、俺はエリスと離れられんし、イブは友人枠だから、当然エリスと一緒になる。聖弓はそもそもエリスの武器だし、ファティマは俺のだ。
そうなると、聖槍しかいないのだが、それは彼女が嫌がった。
そしてジャンケンで負けたのはお前だ。
そもそもの話、貴族のお嬢さん方である侍女さんに護衛を付けん訳にも行かんかったしな。
俺達がそんな話をしていると、噂をすれば影が差すと言うか何というか。
「聖剣様! ご一緒できて光栄でした!!」
「わたくしも、一生の思い出となりました!!」
「わたくし、もう思い残すことはございません……」
俺とロボバトラーが話している所に侍女さん達がキャイキャイ言いながら来て、口々に彼女にお礼を言ってくる。
『【返礼】それはこちらこそだよお嬢様達。貴女達と御一緒できたこと、光栄に思うよ!』
ロボバトラーがそう言うと、侍女さん達の頬が薔薇の華の様に色づいた。そっちはそっちでちゃんと友好を深めてんじゃねぇか。
あれか? 某歌劇団の女優さんみたいな扱いか? ロボなのにな。
いや、この際ロボとか関係ないか。
魔人族の国、外見で言ったら千差万別。それこそ角が生えてるだけの人から下半身が鰐なんて人までいる。
ちょっとロボなくらい普通か。納得、納得。
そう思いながら、眼の奥にハートマークの宿った侍女さん達を見る。
「はい、有罪」
『【驚愕】何が!!』
******
「ほれ、これが依頼完了のサインじゃ」
「おう、確かに、じゃあ……」
「ちょ、待つのじゃ!!」
依頼を完了し、帰ろうとした俺をエリスが引き留める。いや、何でさ。
「犬達に乗るほどでは無いのじゃが、馬たちを走らせたおかげで、旅程はずいぶんと短縮できたのじゃろ?」
「うん、だから?」
俺が素っ気なく返すと、エリスがいきなりモジモジとし始める。いや、言いたい事は分かってるんだ。普通であれば1ヶ月はかかる旅程を20日程に縮めたんだ、そのまま冒険者ギルドに完了報告をすれば、変な意味で疑われるって言いたいんだろ?
だとしてもこっちには、その間の時間を無意味に過ごす意味なんてねぇ。完了報告自体は冒険者ギルドのある街でなら、何処でもできる。
だから俺は。とっとと教会に帰って、提出する日時の辻褄だけは合わせようとか思ってた訳なんだが……
「街を案内するのじゃ!! しばらく泊って行くと良いのじゃ!!」
「そんな暇なんて無い」
アロエ軟膏や化粧水、トリートメントの開発をせねばならんのだ。
俺がそう言うと、エリスが涙目になる。
また前と同じパターンかね? そう思っていたのだが、エリスの傍らに侍っていた侍女が「プラン2ですよ陛下」と耳打ちをした。
プラン2?
ごく、小さな声だったのだが、今の俺は身体能力向上の掛かった状態だ。悪いが聞こえちまった。
「そ、そうじゃ!! イブに旅の思い出を作ってやってはどうじゃ?」
「旅の思い出……か」
そう言われてしまえば、特に最近かまってやれていないなぁとか思いだす。
そういや、公都で待っている留守番組の土産も見繕ってやらんとな。
「分かった、そう言う事なら、しばらく滞在させてもらおう」
そう言った俺に、エリスは「うぬ!」と元気よく返事をした。




