騎士の言い分
椅子に座っている等の状態を長時間続けた後、不意に立ち上がった時に胸の痛みや呼吸不全を起こして最悪亡くなってしまう事が有る。
これ、足等に血栓が溜まってしまって、それが毛細血管に詰まるから起こるらしいんだけど、『エコノミークラス症候群』ってのは聞いた事ないかね? 正式名称はまた違った筈だけど、まぁ、ソレだぁね。
そんな“病気”が有るって事を囁いてやった後、『でもまぁ、俺は、ソレの予防できるんだけどね』とニッコリと言う訳だ。
5時間程椅子に縛り付けていた馬鹿騎士にな!
そもそも結構な感じで心を折って於いた訳だけど、結局は、この言葉が決定打と成った様で、地面に頭を擦り付けながら『どうか聞いてください!! お願いします!!』って懇願されたんで、取り敢えず話だけなぁ? と、事情聴収をした所に依ると、どうやら説得させたかったらしいんだわ俺に、ルティシア嬢の事を馬鹿騎士と結婚する様にって。
いや、しないよ。普通しないよな? むしろしたら恨まれるレベルだと思うし。
てか、説得お願いしようって相手に、アレだけの喧嘩腰で来れるって、頭ん中、か~な~り~、愉快な事に成ってるんじゃね?
「戦乱の世で、相手に侮られると言う事は、即ち、敗北に直結すると言う事だろう」
「成んねぇよ。よしんば成ったとしても、時と場合と人を選ぶわ」
項垂れながらそんな世迷言を宣う馬鹿騎士に思わず言葉が出る。
『【苦笑】相変わらずの情け容赦のなく、バッサリと』
「要らんだろう、コイツに情け容赦とか」
情け容赦しなくても、手加減くれてやってるだけ有難いと思って欲しい所だわ。肉体言語駆使して話してる訳じゃ無し、何の痛痒も無かろうて。肉体的には。
だが精神は折るよぉ。二度とふざけた真似できん位には折っとくよぉ。
「しかし、優れた騎士に仕えられると言うのは誉で……あろう?」
俺の顔色を窺いながらも自分の信念的な事を口に出来るのは、正直“根性は有るね”とは思う。だが、どれ程立派なお題目を唱えたとしても、言ってるのがリックって時点で、何も心に響かんのよ。
そもそも騎士に仕えたいとか思わんし。
「そんな誉なんざ知らんし、尊敬できる人間に力は貸したいとは思う事はあるが、少なくとも、そんな尊敬に値する対象にオマエは入らん」
ショックを受けた顔してるが、いや、コイツ本気で自分の事を『尊敬に値する』人間だと思ってたんか?
「俺はお前の仕えている上級騎士とやらの事は知らんが、下に居るオマエが、こう言う見下げ果てた事しやがる奴な訳だから、その上官もたかが知れてると判断するわ」
「い、いや、殿は尊敬に値する……」
「だ~か~ら~! お前の上司がどれだけ素晴らしかろうと、オマエの行動が全てをおじゃんにしてるんだって!! さっきも言ったが、俺はオマエの上司を見た事も聞いた事もない。だから、オマエと言う対象を通してしか判断が出来んのよ!! その判断する為の材料であるオマエが、軽蔑される様な事ばっかりやってるなら、その上司だって同じ様にしか見る事は出来ないって話なんだよ!!」
軽蔑される様な事を繰り返す奴を許容してるってぇ事だろ? その上級騎士様はさ。他人に迷惑をかける様な事を許容する奴なんざ、この馬鹿騎士と同じ価値観を持ってるか、こんな事を繰り返す奴に苦言も出来ない様な輩てぇ事な訳だから、結局、俺とは相容れられない相手ってぇ事なんだよ。
俺の言葉に、二の句が継げなくなったらしい馬鹿騎士の事を横目で見ながら、俺は小さく溜息を吐いた。




