演舞、と言う程の事じゃ無い
「免許皆伝って、普通は有り難がる物なんじゃねぇの?」
少なくとも、前世で免許証取った時は、俺は嬉しかったぞ? ……ちょっと違うか。
「確かに、本来なら喜ばしい事なのでしょう。しかし、師匠の場合は、どうにも面倒だから放逐しようとしてるかの様な感じがして……」
えー、俺、そんなイメージ?
『【苦笑】普段の行いの所為ですね、マイマスター。幾ら何でも、王女については、放置が過ぎましたね。その上で侍女達を都合よく使っていれば、侍女のついでだと考えても不思議ではないのでは?』
五月蝿いよ。いや、だって俺がなんやかんや言うよりも、騎士団の方に預けた方が、なんぼか鍛錬は出来るだろう?
そもそも、執務の所為で、俺自身、あんまり鍛錬出来て無いんだからね!
「トール、様、ちゃん、と、身体、動かして、る」
「執務の間に、体操? みたいな事やってますよね!!」
いや、イブとティネッツエちゃんはそう言うけど、あれ、軽いストレッチと素振りだけだかんね? ちょっと椅子に座りっぱなしで固まった身体を解すくらいの。
『【否定】いえ、マイマスター。アレは素振りと言うレベルでは……』
「演舞だよねぇ」
いや、型の確認しながら戦斧を振るってるだけじゃん? 鍛錬って程濃密な物じゃないし。てか、何故みんなしてコクコク頷いてるかなぁ。
「え? 師匠、私、それ、見た事ないのですが?」
「そりゃ、ネフェル王女、俺が執務してる間、騎士団に混じって鍛錬してるじゃん?」
「それはそうですが、ですが、師匠の演武、見たいです!!」
いや、見てて面白いもんじゃないと思うぞ? そもそも演舞じゃねぇし。
とは言え、時折模擬戦やるだけって言っても一応、俺が預かった、弟子の様なものな訳だしな。特に、何か教えてあげれてるってぇ訳じゃぁ無いってのも有るし、ちょっと動きを見せる程度の事、断らなけりゃいけない様な理由も無いからなぁ。
「まぁ、その程度で、満足して貰えるってんなら、別に構わんよ」
「有り難うございます!! 師匠!!」
確かに、“見取り稽古”ってぇ物もあるしな。もっとも、俺のコレは、自分が動けているかって事をチェックしてるだけではあるんで、見取り稽古って程、理想な動きが出来て居るかどうかは分からんのだがね。
「ファティマ!!」
『【了解】イエス!! マイマスター!!!!』
変形したファティマを手に取る。バージョンアップしただけの事はあって、戦斧の刃部分が巨大化し、柄も伸びてるのな。
以前よりも遥かに重量感が増して居るにも拘らず、手に持った感覚は左程変わらない。
「成程、バランスが以前と同じ様な感じなんだな」
『【肯定】その通りです。マイマスター』
大型化していてコレってのは正直凄いと思うわ。
それはそれとして、ネフェル王女に見せる為の演武って程の事は無い筈の動きを開始する。
ヒュン!! ブウォ!! って言う風を切る音だけが周囲に響き、誰も咳払い一つしなかった。いや、そんなに無言で見てられると、ちょっと、不安に成るんだけんどもさぁ。
それでも、と、一応、一通り動き、何時もの日課の様な自分の動きのチェックを終了する。
いや、終わったんだから、何か言ってよ。ずっと黙られてると、本気で不安なんじゃが!!?




