旅は道連れ愚痴大会
俺の目の前には、細やかな華美にお成らない程度に優美な衣装の施された馬車が止まっていた。
「……何コレ」
「何って、今回使う馬車なのじゃ」
『【肯定】公都に来たのも、この馬車でですわ』
俺は天を仰ぐ。うん、確かに女王が乗るには質素だと言えるのかもしんないが、どう見ても『地位の高い人間乗ってますよ』的雰囲気が出まくってると思うんだが?
良いのか? これ、盗賊とか引き寄せないか?
挙句、馬車の数これ入れて5台って、え? 聖武器と俺入れて1人1台守るのか? どう考えても護衛たんなくねぇか?
ソロで護衛する関係上、数が多いと困るんだがと言ったはずだが? パーティーとか組めねえし、俺。
確かに、女王が移動するにしては少なすぎる台数だけれどもさ。
今回公都に来たエリスの関係者は聖武器3人とゴドウィン侯ん所で見た事のある侍女さん達4名、それとそれぞれの馬車の御者さんだしなぁ。
聖武器'sを武器形態で屋根の荷物置き場に積んで、御者さん交代要員とのセットとかにして、何とか2台とかで納められんかね?
『【不穏】なんか君、不埒な事を考えて無いかい?』
「いいえ、ちっとも!(裏声) 別におまいら食料を守ってれば良いんじゃね? とか思って無いヨ?」
『【賛成】聖剣は荷物置き場で食料を守ってれば良いと思うデス。その代わりボクは個体名【トール】達と一緒の馬車において欲しいデス 人型の方が良いとか我がまま言わないデス』
『【驚愕】聖槍!?』
いや、ホントに何があったロボウィザード。
俺が不満に思っているのを雰囲気で感じ取ったのか、エリスが少し背伸びをし、オファニムに搭乗している俺の耳辺りに口を近づけた。
「主に守るのはワシの乗っている馬車だけで良いのじゃ。後は侍女と衣装やら食料なのでな、それに、基本全員馬車に乗っての移動となるのじゃ、今回はお忍びじゃからな」
「色々とツッコミが追加されたんだが?」
全員が馬車に乗るて、“普通の護衛依頼の経験積み”どこ行った。
「第一、馬車に乗って居た所で、オヌシ様なら大丈夫じゃろう?」
確かに俺が馬車に乗り込んだ所で、犬達が周囲にいるんだから問題は無いだろう。きっと嬉々として周辺を警戒してくれるさ。主にウリが。
でもなぁ……
「……そんなに長い時間一緒だった訳じゃねぇのに、随分信頼してくれたもんだな」
「当たり前じゃろう? ドラゴンスレイヤーさま」
俺の嫌味交じりの言葉に、エリスはそう答えてニヤッと笑った。
「むー!!」
と、今回も同行する事に成ったイブが、俺とエリスの間に割って入って来る。
いや、イブ、準冒険者だから門外の仕事はさせられないんだがね。エリスとの個人的な友人って事で一緒に行くことになったんよ。
そもそも準冒険者とパーティー組んで良いなら、オスロー達を連れて行く所だ。
おそらくエリスはイブの魔法の才能を見込んでの抜擢なのだろう。天才だからな家の娘。
なんで、今は何時もの町娘スタイルじゃなくて小綺麗なワンピーススタイル。
そう言や、イブも5歳になるんだから、ちったぁ、お洒落に気を使かわんとなぁ。
シャンプーはともかくトリートメントって、弱酸性の何かだったけか? レモンとかトマトとかで良いんかね?
それよりも化粧水が先か? へちま水が良いんだったか? てか、へちまとか有るんか? この世界。
美容関係は流石に分からんな。
あ、アロエ軟膏なら作れるな。先ずは蜜蝋を採って来て……って、いや、だからアロエが有るんか? この世界。
後で調べさせるか、グラスに。
『冒険者のトール』のおかげで、支部長の中で立場が上がったらしいし。
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馬車の周辺を犬達が嬉しそうに走り回っている。冒険者パーティー『新緑の調べ』の連中に聞いてた護衛依頼の様子とはかなり掛け離れている気がするんだが?
一般的な護衛は、体力のない魔法使いとかは荷馬車の方へ乗せて貰えるらしいが、それ以外の剣士だったり斥候だったりは、基本的には、周辺を警戒しながら徒歩で付いて行くものらしい。
そうなれば、必然、護衛の速度に合わせる事に成り、馬車での移動と言えど、結構な日数が必要に成る。
『その間、干し肉と干し芋、それと薄いワインだけなんだぜ』そう言っていたリーダーのアルトの顔を思い出す。
もっとも、これは商人の、それも商隊での護衛の話だがな。
まぁ、それはそれとして、旅の行程は順調に進んでいた。元々、俺抜きでの同じ編成で、魔人国から隣国の公都にまで来てるんだ、問題なんざ起こりようがない…………これ、フラグ踏んでねぇよな?
『【確認】聞いてるデス? 個体名【トール】』
「聞いてるよ、ゴドウィン侯の話な」
俺達は今、馬車の中で座って世間話をしている訳なのだが、これがまた、ロボウィザードの愚痴大会になっちまっていた。
俺は、自分、と言うよりオファニムに寄りかかって眠っちまったイブを起こさない様に、小声でロボウィザード返した。
要は、ゴドウィン侯、元々剣士なんで、あんまり槍が得意じゃないらしい。それでも使い手としては上位に位置する。腐っても武門の頭首だった男だしな。ただ、先に言った様に苦手ではあるんで、好んで使おうとはしないんだそうだ。
まぁ、自信のない武器に命を預けようとは思わんよな。普通。
そのせいで聖武器が自信を喪失してる訳なんだが? どうにかしろやゴドウィン侯!! アンタらの国の国宝なんじゃぁ!!
ファティマも最初はそうだったけど、ちょっと、聖槍も精神的に幼い感じがするよな。出会ったばっかの時、やたらと俺に世界征服って言うか、世界の統一を促して来たのは、聖武器を創った者の、『旗頭として、人類が一つになれば』って言う希望を忠実に……いや、ちょっと曲解して解釈していた為だろうしな。
それはともかくとして、折角認められるだけの使い手に出会ったってのに、その使い手が自分をあまり使ってくれないってなれば、不安にもなるか。
……って、なんで俺、武器の人生相談なんざ受けてんだ?




