2歳になっていた
オファニムの中に入り、プラーナを循環させる。コイツは俺の使い魔の様な物でもある訳で、普通なら魔力パスで繋がって、魔力供給とかする訳なんだが……あーうん。魔力、使えませんから俺!! 残念!!!!
それでも、直接接触してなら、俺、他人にもプラーナ送れるわけじゃん?
なんで、こうやって、プラーナをオファニムに送ってる訳なんよ。
非効率? そう思う奴は愛情や愛着を持った事のねぇヤツだよな。
道具にしろペットにしろ、“正しい方法で”手間暇かけてやれば、その分愛情を返してくれるもんなんだよ。ホントに。
そもそもオファニム魔法生物だからな? 要はカテゴリーとしては生き物なんだよ。
基本、自立行動ができないから、主の方が手間をかけてやるなんて当たり前の事だ。それでなくても、コイツには命を守って貰ってる立場なんだしな。
「よい、の?」
イブが俺をつつきながらそう言う。
『【警告】それ以上、個体名【オファニム】に近付いたら、マスター直伝の「跳ね腰から始まる寝技48手」が火を吹きますよ!!』
「ほほう? ファティマさんと触れ合えるなら、それも上々。さぁ!! 自分に技をかけて見せろぉ!! 間直でそのボディー堪能して見せる!!」
『【恐怖】ヒィ!!』
マトスン、最近増々言動が変態化してるぞ? それはともかく、イブ、せっかくオファニムと戯れる事で現実から目を逸らしてたんだから、引き戻さないでくれ。
俺の隣に侍っているバラキがつまらなさそうに「ク~ン」と鳴いた。
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新しい日常をそれなりに過ごして居たら、いつの間にか2歳になっていた。
日々無事に成長している様で二足歩行をしていても誰にも驚かれなくなったわ。
『冒険者トール』の方は、公爵との謁見と言うイベントを無事終らせていた。まぁ、ドラゴンスレイヤーだしな。と言っても俺が直接謁見しに行ったわけじゃないがね。
流石に公爵相手に顔見せNGって訳には行かなかったから、未成年を建前にしてグラスが代理で。
その際になんか公爵家に仕えないかみたいな話やランク上げの話なんかも有った様だけど、「全部断っとけ」とグラスに丸投げしといた。
公爵家に仕えるとか正直冗談じゃない。それに、ランクなんか上がると、指名依頼とか面倒な事を受けなきゃなんなくなるし、そもそも護衛依頼とか受けらんねぇじゃん俺。
ランク上げの中には盗賊の退治、要は対人戦闘の適性を見るものや、護衛依頼とかも当然ある。
盗賊の退治に関しては、実は俺はヴィロウズって賞金首を捕らえた事があるんで、もう完了済みなんだが、問題は護衛依頼の方だ。
護衛って事は、依頼主と移動の最中は同行して、守り続けなきゃいけない挙句、移動で数週間からの時間が掛かる。
前に言ったと思うが、一番近い都市でも10日ほどかかる。往復だと20日だ。これが護衛って事だと、馬車に揺られながらって訳には行かんので、もっとかかるだろう。
まぁ、復路は走って帰れば、それほどかからんがな。
俺には教会にしている孤児院の事も有るんで、よっぽどの事が無けりゃ、そんなに街を離れていられんのよね。
さらに俺、身内以外の前で鎧脱げないじゃん。
なんで、どの道ランク上げとか無理だと思って居たんだが……
「いや、アンタここの代表でもあるでしょ? ランク上げられんなら上げときなさいよ」
「いや、マァナ、俺の話聞いてたか?」
「聞いてたよ、教会は、アンタがしばらく居なくったってどうとでも成るってば、オスローやジョンだって居るんだし」
まぁ、確かにそうなんだが、そもそも人前でオファニムを脱げないんだってばよ。そう主張したら、ファティマが人差し指をピンと立てて言った。
『【提案】私に良い考えがあります、マスター』
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「ワシが来たのじゃ!!」
エリスが来た。
無言でファティマの方を見ると、ドヤ顔っぽい雰囲気で、『【自信】事情の分かる護衛対象を用意しました、マスター』と言った。
いつの間に……あぁ、そう言や、姉妹とは意識の共有ができるんだっか。
『【宣言】ワタシも来たぞ!!』
「よし、帰れ!!」
何してやがる! 国宝!!
『【発言】ボクも来たデス!!』
「ロボウィザード!! お前もか!!」
『【謝罪】申し訳ございません、ワタクシも来ちゃいましたわ』
「まぁ、ロボセイントは、エリスが主だしなぁ」
『【差別】聖弓だけ態度が違うじゃないか!!』
『【懇願】ボク達……いや、ボクだけで良いから、愛を下さいデス』
『【驚嘆】聖槍!?』
おまいに何があったロボウィザード。
それはともかく、仮にも女王が国外に出るんだから、最高の護衛をってのは分かるんだが、聖武器3人が護衛って、過剰戦力にも程があるわ!!
過保護すぎんぞ、ゴドウィン侯!!
「まあ、良い。とっとと依頼してくれ、速攻で片付ける」
「ちょっと待つのじゃ」
「あ?」
「もしやまた、犬を使うつもりか?」
当たり前じゃないか。それが一番早い。俺がそう思っているのが読み取れたのか、エリスが渋い顔をした。
「……人間、効率だけを考えるのはいかがかと思うのじゃ」
「何の話だ?」
「今回は、護衛依頼なのじゃぞ? つまりは依頼主に対し不自由を掛けぬことも必要だと思うのじゃ」
そうか? 護衛される側にも護衛されてるって自覚が必要じゃないか? あまり勝手な事をされて、守り切れなく成れば、結局損をするのは依頼主だと思うんだが。
そう思い、首を傾げる俺に、エリスが言葉を重ねる。
「いや、例えば、確実に敵が襲って来ると分かっておる場合ならそうなのじゃろうが、今回はあくまで、魔人国までの旅と言う事に成る。それに、犬達を使うと、オヌシ様の護衛としての経験が積めぬのじゃ」
「それでは、本当の護衛依頼が来た時に困るじゃろう」と、エリスが言葉を締めくくった。
いや、そもそも俺、そんなに護衛依頼とか受ける気は無いんだが?
しかしまぁ、護衛として経験を積むってのは一理あるか。
「う~ん。そうだな、なら、今回だけは普通の護衛ってやつを経験してみるか……」
「そうであろう?」
俺の返答に、エリスが嬉しそうに微笑んだ。




