拾ろったった
ガブリ達が掘った穴を廃材から拾ってきた木で補強する。
どれ程有用かは分からないけど、遣らないよりはましだろう。
穴は既に20m以上の長さに成っているが、防壁の幅がどれくらいか分からないから、もう少し掘った方が安全か。
そうなると、そろそろ空気穴が必要に成るかもしれないな。
そんな事を考えていると、おっぱいを飲み終えたらしいガブリが、背中にのし掛かって来た。
俺は作業の手を止めて、ガブリを抱き抱えながら穴の外に出る。
ウリとラファがじゃれ合い、ミカがソレを眺めている。
本当に仲が良いな、この二匹。
ラファは好奇心旺盛で、ジッとしているのが苦手だ。だからだろうか? 貧民街で穴堀をしようとしたとき、ガブリと一緒に真っ先に俺に付いてきた。
よっぽど、“外の世界”と言う物に興味があるのだろう。
そんなところも含め、こうしてウリとジャレついている所を見ると、まだまだ子供だなと思う。
いや、俺もまだ赤ん坊だがな。
そんな微笑ましいことを考える事ができたのは、俺を見つけたミカを筆頭に、三匹が飛びかかって来るまでの間の事だったが。
******
ミカと教会までの帰り道を急ぐ。ウリは、まだ遊び足りないらしくラファの所に居たがったので、ガブリに任せて置いてきた。
なんと言うか、土堀り関係だと職人気質だよなガブリ。
だからこそ、任せて置いてこれるんたけど。
まぁ、夜にはまた迎えに来る予定だし、暫くは良いか。それよりも、教会菜園の方が気になるしな。
実は先日、芋以外の根野菜で葉っぱが伸びていた物があったので、水に浸けていた所、どうやら育ちそうだった事もあって、それも菜園の方に植え代えたのだ。
上手く根付いてくれると良いんだが。
拠点も増やすし、それぞれにそれなりの備蓄はしておきたい。ただでさえ、これから、食料が益々必要になってくるからなぁ。
!! イカンイカン、ネガティブが襲ってきてる。魔物扱いが、結構心に刺さっている様だ。
もう、乳児に成るのだから、もっとポジティブに成らなくては!!
イエーイ! 異世界転生イエーイ!!
ふぅ、これで善し!
「ん?」
進路上に人が居るのに気が付いた。中年と幼女だ。ただそれだけなら、俺も無視して突っ切っただろうが、オッサンが幼女のボロ切れ……ゲフンゲフン、服に手に掛け、端を捲り上げていた事と、そのオッサンのオッサンが臨戦態勢だった事に、ソレをされてる幼女の表情から、まるで感情が抜け落ちていた事に眉をしかめた。
ここは貧民街だ、弱者が搾取され、さらに弱い者は踏みにじられる場所だ。
言うことを聞かない子供を殴り倒して、言うことを聞かせるなんて当たり前の事だし、される側の目に、絶望以外が張り付いていないのも当たり前なんだろう。
だから、これも日常茶飯事だし、俺がどうこう言う権利もない。
第一、俺、貧民街の住人じゃねぇし。
ただそれと、俺が納得できるかは別問題だ。
テメエの都合で、ガキに何しても良いとか思ってんじゃねぇよ……
ガキが諦感張り付けた顔してんじゃねぇよ!!
「おい、テメエ、子供に“ナニ”するつもりだ?」
「あ? ん? はぁ?」
ミカから降り、思わず口を出した俺の姿を見たオッサンは、怪訝そうな声を上げ、目を擦って二度見をし、間抜けな顔で信じられないものを見たと言わんばかりの声をあげる。
……こんな貧民街の連中から見ても、非常識なんか、俺。
だが、呆けていたのは一瞬だった。流石は貧民街の住人だ。適応力半端ねぇな。
「ああ!? イキッてんのかあ!? ガキ? が」
そこはガキだと言い切って貰いたかった。
ただ、オッサンは、俺の小さな体格を見て落ち着きを取り戻したのか、暴力的な雰囲気を漂わせる。
「こっからはガキが見て良い所じゃねぇんだよ!! 痛い目見る前にどっか行きやがれ!!」
ガキに見せられない様な事を幼女にするつもりなんか、矛盾してんぞオッサン。それに、子供に対して暴力を躊躇しない感じは、日常的に同じ事を繰り返してるって事だな。
よし、俺的に有罪。
「ほら、とっとと失せやがれえ!!」
そう言って俺を蹴ろうとしたオッサンの足を半身で避けると、その足下まで一気に詰める。
体を沈め、腰を捻る様にしながら、地を這う軌道から拳を天に突き上げた。
その際に、踏み込んだ足で地を蹴り、体毎ぶつける様に、だ。
狙い能わず、俺の拳がオッサンのオッサンにクリティカルヒットする。
「ふひゅ!!」
オッサンが変な声をあげ、股間を押さえてぶっ倒れた。
仔犬達と、追い掛けっこや狩りゴッコをして鍛えた俺のフィジカルは伊達じゃねぇ!!
特にウリとか、ホントシャレにならない身体能力だしな!!
おかげで、前世の記憶のある俺から見ても、今の自分のフィジカルは驚くほど高い。
一撃で泡を吹いて倒れたオッサンを見下し、そのままミカに飛び乗る。
所詮は自己満足だし、これで貧民街の何が変わるって訳でもない。
結局、自分の中の激情を昇華したに過ぎないからな。
だからそうして、そのまま去ろうとしたんだが……
「……何のつもりだ?」
声を上げた俺の視線の先には、幼女が俺の服の端を掴んで立っていた。
呆けた様な顔からは感情は伺えないが、さっきまでの諦感を張り付けた表情とは違って見える。
「……何のつもりだと聞いているんだ」
一応、覚えたこの世界の言葉で話しているんだから、俺の言葉の意味が通じないって事はないはずだ。
現に、さっきのオッサンとは会話が成立していた。
あれ? もしかして、転生してのファーストコミニケーションって、あのオッサンか?
なんか、悲しくなってきた。
俺が自分の人生を憂いていると、幼女の口許がモゴモゴと動いているのに気が付いた。
だが、その割には言葉が聞き取れない。
ショックの為に声が出ないのか、それとも声を出さない様に躾られたのか。
どっちにしろクソの様な話だ。
そして多分、この幼女がこんな事をしているのは、お礼を言いたいなんて言う殊勝な心掛けからじゃないだろう。
俺は、溜め息1つ吐くと、「付いて来たいのか?」と訊ねる。
幼女は、コクリと頷いた。