お医者様でも草津の湯でもなぁ
ここに来て最大の問題点は、『どうやって、娘さんと話をするか』ってぇ事なんだよな。ふさぎ込んで部屋の外に出て来ないって時点で、接点そのものが持てない。
誤解を解く為に話し合いをするって以前の問題で、言葉を交わす事すら出来ん訳だからなぁ。
「ペンデルト子爵、娘さんを呼び出したりってのは難しいのか?」
「はい、こちらとしても何度も呼びかけては居るのですが……」
「だよなぁ」
まぁ、呼び出せても、その誤解を解くって話自体が、結構な地雷にもなっている訳だから、その後も色々と厳しいんだとは思う。
こう言っちゃ、何だが、前世では振られまくってた俺は、振られる側の気持ちは分かる。分かるんだが……
「婚約破棄とかはされた事はねぇからなぁ」
「……」
「……」
俺がボソリと呟いてた言葉に、何か、子爵さんと侯爵家子息がこっちを『そりゃそうだろ』みたいな目で見てるが、おおよそ、彼らの思ってるのとは真逆な理由だと思うんだがね、これ。もっとも、そもそも、この二人は、俺の前世なんざ知らん訳だし、仕方が無いんだけんどもなぁ。
うん、周囲に女の子さん引っ付けてる俺の言葉に説得力がないってのは良く分かってる。……もしかして二人の目が胡乱気に成ってるのって、これも理由か?
『そこに居るのは婚約者じゃ無いんかぁい』とかってツッコミを入れて貰わんと、反応も出来んのだが。
そう言えば、コイツ等の事は『家族です』位の説明しかしてないや。って言っても家族は家族だからなぁ。
それはさて置き、実際、今世では婚約者どころか恋人も居ないが……魔人族国女王は、告白はされてるけど断ってるから、婚約者や恋人がいないのは間違ってないよな? キャルとヴィヴィアン? 彼奴等は放置で。どこまで本気か分からんし。
前世ってぇカテゴリーで言っても恋人やら配偶者ってのは居た試しがない。いや、告白した事くらいは有るんねんで? でも『何と言うかお父さんみたいで、恋人って感じじゃぁ……』みたいな振られ方を両手に掛かる程度してれば、気力も萎えるさね。何だよ『お父さんみたい』って。
それ以降はどっちかって言うと、そんな雰囲気が有った場合はフラグクラッシャーな感じで立ち回てったしなぁ。
告白以前にそんな雰囲気に持ち込まさせなかったって言うか……
まぁ、そんな感じで、“振られる”って事に関しては、人並みには経験が有るから、あの空虚さってか脱力感ってか無気力さに関しては共感できるとは思うんだが、そもそも恋人的なアレコレの経験がない以上、恐らく、それと同等かそれ以上な“婚約者”ってぇ経験からの失恋に関しては、俺には想像する事しか出来ない。
俺の場合、その当時学生だったって事も有って、嫌でも翌日から学校とか行かなきゃならなかった挙句、振られた相手とも教室やら部活やらで顔を見合わせなきゃならなかったから、気にしない風を装いつつ、タフに生活しないとどうしようもなかったってぇ事も有って、心が鍛えられたって所は有った。
それを前提にしちまうと、結構、日常で友人達と馬鹿やってれば、そう言った心の傷ってのは癒えて行くんだけど、この場合はどうなんだろう。
ただ、食事は多少なりとも取っているって話だから、思っている程深刻じゃぁ無い気もするんだが……
「そうだ!!」
俺達がそんな風に頭を悩ませていた時、アルティナスが何かを閃いたらしく、声を上げた。
「オーサキ伯!! 謝ってください!!!!」
「あぁ?」
「ひっ!」
いや、何言っての? この侯爵家子息。




