後日談
「よう! ドラゴンスレイヤー」
不愉快な言葉に、俺はグラスを飛びつきヘッドシザースからのフランケンシュタイナーで床へと沈めた。
相当大きな音が鳴ってるハズだが、周囲には“何時ものじゃれ合い”と、受け取られているらしく、今更見に来るヤツも居ない。
「おま、ヒデェな! 第一事実じゃねぇかよ!!」
「分かっている、が、茶化されて面白いかといえば否だ」
流石にマトスンとは鍛え方が違うな。即座に復活しやがった。
さて、ドラスレ云々の話だが、これは公式に発表されちまった話だ。
邪竜を倒した後、戦後のアレコレを誤魔化すのには、これ以上有効な手段はなかろうと、邪竜襲来を言い訳に使う事にしたのだ。
つまり、業務が滞ったのも、財政が傾いたのも、飢饉が起きたのも、洪水が起きたのも、全~部邪竜のせい。
伝説に謳われる邪竜の復活なんて、世を混乱に陥れるだけなんで、内々に処理を進めてたんだけど、そのせいで家臣達に誤解させてゴメンネ? ってこったな。
実際、傾国の美女(笑)である所の側妃のゴモリーさんも邪竜討伐に出てったしな。
んで、国王と王弟、誤解が解けて和解はしたけど、責任を取って引退するよ。周辺の国々は、支援してくれた事に感謝はするけど、お礼はちょっと(おまいらの望んでいた物とは違うけど)待ってね? だって邪竜のせいで国内荒れてるし、仕方ないよね。って事で押し通すことにしたのだ。
何せ、その現物が実際に魔人族国に存在してるのだ。これ以上説得力のある話はない。
でもって、その邪竜討伐の立役者として抜擢されたのが『冒険者のトール』と言うわけだ。
………………
いや、俺は嫌がったんよ? 宥めすかして懇願して、イヤだイヤだと駄々こねて! それでも諦めないなら「よろしい、ならば戦争だ!!」と脅迫紛いな事までして!!
だが、だめだった。
流石に黒鎧の目撃者が多すぎたし、公都に入るときに、エリスの身分保障したのは『冒険者のトール』だったからだ。
国内だけならどうとでも成ったんだろうが、他国の兵への情報操作は流石に難しかった様だ。そもそも、出入記録とか残ってるしな。
その事について「責任取ってよ」と言われれば、もはや頷くしかなかったんや。
つまりは自業自得。なんか、こんなんばっかりだな、俺。
ともかく、こうして『冒険者のトール』さんは『ドラゴンスレイヤー』へと相成った訳だ。『冒険者のトール』さんは。
まあ、『冒険者のトール』の管轄はグラスだ。後はコイツに丸投げしよう。そもそも『冒険者のトール』をでっち上げたのグラスだし、うん。
「何か、良からぬ企みを感じるぞ?」
「あん? 気にするな、思った通りだ」
「そうか、なら気に……って! 思った通りなのかよ!!」
「HAHAHAHAHAHA!」
******
邪竜討伐から半月程がたった。エリスからは「魔人族の国へ居を移してはどうなのじゃ?」と誘われたが、「色々やる事あっから無理」と断った。
なんか泣きながら「オヌシ様のアホ~!!」って叫ばれたが。
公都に戻って、前と同じ生活に戻ったかと言うと、そうでもない。いやまぁ、ドラゴンをスレイヤーしたせいで、全く同じ事が無理だってのは最初っから分かってた事なんだが、それとはまた別で。
まあ先ずは、オファニムが俺の専用装備となったって事だな。元々、魔人国所有の聖武器が作った装備な訳なんで、魔人国に返そうと思ったんだが、「いや、オヌシ様以外に使える者がおらんのじゃし」って事で邪竜討伐の褒美として下賜された事にした。そう言や、使い魔として契約してんの俺だったわ。
『【警告】個体名【オファニム】には、指一本も触らせません!!』
「そんなこと言わず!! ファティマさん!! あ!! どうしてもと言うなら、貴女が代わりにでも……」
『【動揺】うっ、それは……』
「あっれぇ~? やっぱり自分の身の方がかわいいのかな? だったらオファニムの方を……」
『【屈辱】くっ、駄目です!! 仕方ありません、私の身体を……』
「クックック、そうやって最初から素直に……」
俺は飛びつきヘッドシザースからのフランケンシュタイナーでマトスンを床に沈めた。
『【歓喜】マスター!!』
こうして教会に彼女が居る事でも分かっただろうが、二つ目がファティマだ。
彼女も、元々魔人国の国宝の一つだったんだから、元に戻そうと思ったんだが、それは本人に強固に反対された。
曰く『【必然】私は個体名【トール】との使役契約が履行済みです。なので私がマスターと供にある事は当たり前の事なのです!!』と言う事らしい。
この辺ロボっぽいよな。ってか、いつ使役契約とかしたんだ?
つうか、俺がファティマを使ってたのは、他に使える者が居なかったからだったじゃねぇか。
俺なんかはそう思ってたんだが、エリスにはそれが当然の様に理解できてたようで、苦笑しながら「まぁ、しょうがないのじゃ」と言っていた。
何故か聖剣も俺の所に来たがったが、流石にそれはエリスどころかファティマにも止められたわ。
『【羨望】個体名【ファティマ】だけずるいじゃないか!!』とか言っていたんで、何でかと思ったが、件の序列、使い手も含めて聖武器の性能って事に成るらしく、聖剣も俺に使われたかったらしい。
……お前、元国王おるやん。
昔は聖剣が序列一位で、聖斧が最下位のミソッカスあつかいだったとか。
理由は「聖剣ってなんか格好良いじゃん? だけど斧って重いし恰好悪いし……」って当時の使い手が言ってたかららしい。
良いじゃん斧。斧の何処が悪いんよ。最近の仮面のあの人達とか、最強武器斧だったりするじゃん。
とりあえず「元々俺、斧使いだから無理」と言ったら、何か泣きながら『【号泣】個体名【トール】のアホ~!!』と叫ばれたが。
そんな訳で、ファティマも俺の所に来る事に成ったのだ。
無表情で俺に抱きつくファティマ。そしてその反対側には、いつの間にか対抗するかの様に抱きついてるイブ、その間にグイグイ入り込んで来るバラキ。圧し掛かるウリ。
ミカにキャロとマァナ、『あらあらまあまあ』みたいな表情で傍観してんじゃねえよ!! オスロー、とっとと助けろや!!
更に騒がしくなった新しい日常。まぁ、何とかかんとか、生きていきますか。




