踊れにゃ損々
王都の邸宅の方にもダンスホールはあるんで、新年式の夜会に向けてのダンスレッスン。当然第二夫人の指導で。
別に踊り方を忘れてるってぇ訳でもなければ、踊れないってぇ訳でもないんだが『ワンランク上の紳士を目指すのよ! トールちゃん!!』とか言われてしまえばやらない訳にはいかなく……いや、そんな理由だけならやらんかったかも知れんけど、こっちが断ろうとすると、悲し気なのよ、顔が。
第二夫人が悲しそうになるなら、ダンスのレッスンくらいやってやろうかと思っちまうのは、俺がマザコンだとかそう言う事じゃ無いと思いたい。憎からずな相手が悲しそうなら、ちょろっと位やってあげようとか思うよね? 普通は。
……だよね?
前に練習してた時と同じく俺のパートナーはイブ。ティネッツエちゃんは、今回幼馴染のグーテンシュバッソが居無いんで、申し訳ないけど、イブと踊ってから次にって感じ。
本来なら王城には招待された貴族とそのパートナー及び、それぞれにお付きが1人ずつ位しか入れないんだけど、モンスター'Sは多分『行く』って駄々こねるだろうし、そうなると、ティネッツエちゃん1人だけ残しとくのもなぁ?
って事で国王陛下の方に相談したら、侍女会場の方になら入って貰っても良いんじゃね? って事だったんで、王城までは一緒に行く事に。
そっちはそっちでやっぱりダンスとか踊る事も有るらしいんで、ここで再練習をする事にした訳だ。
因みに、犬達は流石に王城の中には入れないんで、何時もの如く厩舎の方に居て貰う事にした。
それはそれとしてのダンスレッスン。
足運びと腕のフリ。身体の中心から外側へ外側へと、ゆっくり大きく。リラックスして見える様に優雅に、優雅に。
何かネフェル王女が何か羨ましそうにこっち見てるけど、王女に釣り合う相手がいねぇんだからしょうがねぇじゃんよ。体格的に。
イブの手を取り1・2・3のステップを踏む。イブ、魔法職だけど、普段メイド業やって動き回ってるからか、結構体幹がしっかりしてるんで、かなり踊り易い。もっとも、俺の方も無茶なリードとかしないしな。
見るとラミアーはいつもの様に1人で……じゃ、ねぇな。セフィ及びミカとバラキも一緒に4人でくるくる回ってるわ。
コイツ等にとってダンスって何なんだろうね?
「うん、相変わらず、キレのある動きねぇ」
イブと踊り終わって、お互いに一礼すると第二夫人がそう評価してくれた。
「トールちゃんは、次は華やかに魅せる動きをやってみましょうか」
「え、はい」
魅せる、ね、つまりはダンスパートナーを魅力的にするように動かせ、と。理解は出来るが、イマイチ想像がつかん。まぁ、その前にティネッツエちゃんとのダンスだけんども。
俺達のダンスを見ていた王女が、うずうずしているのを隠しもせずに俺に声を掛けて来る。
「あ、あの!! 私とも踊って……!!」
「いや無理」
素っ気なく返事をすると、『ガーン!』って感じの擬音が聞こえてきそうな表情をして来たけど、そもそも体格が全く釣り合わんからな?




