決着をつける
武器ってのは偉大な発明だ。
まともな爪も牙も持たない人類が、野生動物とやりあう為にはどうしても必要なファクターでもあるからだ。
例えば、手ごろな石を投げるだけでも充分な殺傷力を得る事も出来るし、安全な場所から攻撃する事だって出来る。
つまり武器を持つって事は、それだけで戦闘力を高く出来るってぇ事でもある。
だからこそ、“武器を使う”ってぇ事に拘っちまう理屈は分からんでもない。特にそれが得意な武器であるなら尚の事。
ただ、それを踏まえた上で、【武器】ってのも、やはりただの“道具”でしかない。つまりは、有用に使えるかどうかは、使う者次第だって事だな。
「なっ!!!!」
圧倒的有利に成っているはずの俺に、唐突にハルバードを投擲された事で、王女が慌ててメイスでソレを叩き落す。
拳大の石の塊ですら当たり所が悪けりゃ致命傷になるんだ、15kg近い鉄の塊が飛んで来たら、そりゃ慌てるよな。
けど、相手から目を離すなんてのは、致命傷だぜ?
俺はハルバードを投擲した直後に、ネフェル王女の右側面を通過する様に駆け抜ける。
メイスを振りかぶっちまった、いや、ハルバードを叩き落そうとするアクションを開始しちまった後に、その得物を持った利き手の外側ってのは、自身の腕そのものが邪魔して対応が出来ない。
足を俺の進行方向に割り込ませる事も出来んだろう。それも使用している武器が、質量の有るメイスなら尚更に、だ。
なにせ、重量が有り過ぎる。重心に成った足なんざ、それこそ動かす事なんざ出来んよ。
その上で、そちら側に踏み込んでる関係上、半歩分、王女の背中が俺に近くなる。
たかが半歩分、されど半歩分。その刹那の時間ってのが必要で、必殺の一瞬に成る。
武器ってのは使いよう。あくまで、目的の為のツールでしか無いんだわ。
俺はそのままネフェル王女の首に腕を絡める。
左手は動かず、この期に及んで右手はメイスを離す事は無い。
肘を使いクイッと王女の顎を僅かに上へとずらす。それだけで俺の腕は、ネフェル王女の、その細い頸へと密着する。
「くぅ!!」
拙いと思ったのか、ようやっと王女がメイスを手放し、自身の頸に巻き付いた俺の腕を外そうとするが……
いや、遅いって。
只の首絞めであるなら、気管を圧迫し、呼吸をさせ無くする事での酸素の供給を停止させ、所謂締め落とすってぇ状態にする訳だから、3分、下手すりゃ5分10分掛かる可能性も有るだろう。
だが、今俺は、頸動脈を圧迫して、脳へと行く血流をせき止めた。そうなると、我慢強さだとか根性だとか関係なく、強制的に意識をシャットダウンさせる事が出来るんよね。たった数秒で。
ネフェル王女も、手を俺の腕にまで到達させる事が出来ずに、カクンッと、全身の力が抜けた。
まぁ、これ、俺が意識を回復させられる術を持って居るからこそできる事でもあるんだがね。普通にやって放置なんざしたら、そのままThe・ENDな訳だし。
気を失った王女の肩甲骨の間に手を当て、発勁よろしく【プラーナ】を打ち込む。ついでに左手も直しておく……が、この娘さん、左手だけじゃなく二の腕と肋骨も罅入ってんじゃんね。よくあれだけ動けたもんだわ。
まぁ、一緒に直しておくけど。
それより。
「俺の勝ちだよな?」
「え? あ!! 勝者!! トール伯!!」
俺は気を失った王女を抱えながら、何故か唖然として俺を見ていた兵士長を促し、勝利者宣言をさせた。




