仕切り直して
ゆっくりだった歩みが次第に加速する。メイスを真後ろに隠すようにして走って来る王女を俺は訓練所のほぼ中央で迎え撃つ。
ただ、どうしても、その特性上、大振りに成るメイスの軌道は、正面の、だいたい8方向からの攻撃に限られる。
その事も思慮に入れた上でのメイスの扱いなのだろう。出だしが分からなければ、それに反応しての迎撃も遅れるからな。
だからと言って、防ぐ事の出来ない状態で、顔面を晒したまま突っ込んで来るってのは、流石の胆力だわ。
俺が飛び道具の1つでも持っていれば、それだけで終わりだって言うのになぁ。多分、さっきの攻防で、俺に遠距離攻撃の手段がないと踏んだのだろうさ。
まぁ短慮な上、勘違いだけど。だって、俺、一応遠距離攻撃方法持ってるし。
だが、その覚悟は気に入った! この近接戦闘、最後まで付き合ってやるよ!!
ハルバードとメイスってぇ武器の特性上、どうしたって得物の攻撃範囲は俺の方が有利に成る。単純にメイスよりもハルバードの方がリーチが長いからな。
メイスで俺に攻撃をしようって言うんなら、先ずはハルバードの攻撃範囲を掻い潜ってメイスを当てられる範囲にまで潜り込まなきゃいけない。
さっきは、シールドが有ったから文字通り、それを盾に突っ込んで来られたが、今は、そのシールドが無い訳だ。さて、どう、距離を詰める?
ハルバードの攻撃距離に入る寸前、ネフェル王女が加速しつつ横にステップを入れる。左右に足を入れ替えつつ、フェイントを掛けて来た。
まぁ、ここで、急制動を掛けたり、馬鹿正直に突っ込んだりしても、返り討ちに合うのは目に見えてるからな。
ただ、そう言う意味ではオーソドックスな戦法ではある。
こちらからのリアクションが見られないと見た王女は、今度は姿勢を低くし、一歩を広く取っての加速をする。
成程? 俺は、王女の脚に力が入った所を見計らって、おもむろにハルバードをすくい上げる様に振るった。
「!! ッ」
丁度、俺を跳び越えるかの様に動こうとしたネフェル王女は、その一撃で思わず足を止め、咄嗟にうしろへと飛び去った。
視線を下へと向けといて上へってのも、セオリーっちゃ、セオリーだろう? 多分、確実に俺に一撃を入れる為に、俺を跳び越えて、背後を取ろうと思ってたんだろうが、それは読まれたが為に、後ろへと引くしかなくなった訳だ。
ゼーゼーと息を荒げる王女が、こっちを睨み付けると、今度は俺を中心に、周囲を回る様に移動を始める。
多分、ここからステップとフェイントを使用して、俺の隙を突きたいんだろうが、アレだな、最初の攻撃もそうだが、王女の攻撃は基本に忠実で、素直な攻撃が多いな。スピードで翻弄するタイプとしてオーソドックスと言うかな。
いや、あの巨体でスピードタイプって事自体で、既に意表を突かれるんだろうが、だとしても、そこからの突き崩しのパターンがなさ過ぎるだろう。
あー、恐らく先祖返りだろう、巨人族の女性だったとしても恵まれた巨体と、恐らくそれ由来の膂力。そして、あの瞬発力からの攻撃速度を駆使すれば、確かに、すでに決着がついてる事が多いのか。
もしかしたら、ここまで不利に成った状態で戦うって事も、殆ど無かったのかも知れない。
どうにかして、俺の懐に潜り込もうとステップとフェイントを繰り返す王女だが、いや、そんな隙をやるわきゃ無いだろう?
俺は、ハルバードで、入り込もうとする、その出先を悉く潰す。
さぁ、俺の懐に潜り込むんだとしたら、ソレじゃぁまだ足りんよ? よっぽど、思い切った手段を使わない限りわな。
さて、どう攻める?




