真剣勝負
巨躯を縮こまらせる様にシールドの裏側に隠していたネフェル王女が、瞬間、加速したようにこっちに突っ込んでくる。
シールドバッシュ初手ってのは、よっぽど加速に自信がなきゃ出来んよな。大きな塊が突っ込んでくる様は脅威ではあるが、見える動きだ。
まぁ、向こうの質量を考えれば、俺程度の小兵はが何した所で悪あがきにしか見えんのだろうが……
「ソレは悪手なんだわ」
俺は、ハルバードの石突をシールドの下部に潜り込ませると、盾そのものを回転させる様にしてかち上げる。
カイトシールドは、鏃型をしていて、下部は尖った三角形の様な形状なので、安易に狙ったとしても滑らされ、流されるのだが、それでも持ち手に対して垂直に当てられれば、力を逃すことなく、かち上げる事も出来る。
そうなれば、そこにあるのは無防備な胴体だけだ。
俺は、石突でかち上げた体制のまま、更に一歩を踏み出すと、そのまま突きを入れる。
「ひゅっ!!!」
だが、ネフェル王女も、その刹那、身体を捻ると、その突きを躱し、その勢いのまましなう様に腕を振り、メイスを叩き付けて来た。
そのメイスの軌道に添わせる様に斧の面でソレを受け流すと、突きの途中から軌道を横方向に転進させ、そのまま薙ぎ払いに切り替える。
シールドをかち上げられ、メイスを受け流された事で身体が流れて、無防備な背中をさらす事に成ったネフェル王女だったが、それでも、強引に俺の薙ぎ払いの間に腕をねじ込む。良い反応速度だ。
けどな……
「!!」
俺の膂力を舐め過ぎだ!!
予想外の威力だったんだろう。王女の表情が驚愕に染まる。
メキィッと言う鈍い音がし、俺の足元のタイルに罅が入る。と、ネフェル王女が、真横に吹っ飛んだ。
それでもバランスを取って体勢を整えようとする。が、それを待つほど、お人よしじゃぁねぇんだわ。
体をぐるりと回転させ、ハルバードをぶん回し、大壇上から叩き付ける様にして振り下ろす。
「くうっ!」
その一撃を辛うじて王女はシールドで受け流すが、整え始めていた体勢はさらに崩れた。俺は、更に踏み込むと、受け流されたハルバードの軌道を縦方向から斜めへ、そして体の後ろへ回す様にして横方向へと軌道変更し、ステップを踏んで勢いを増すと、斧の側面を叩き付ける様にしてフルスイングした。
それを。カイトシールドで受けるネフェル王女。そうだよな。その体勢からだと、シールドで受けるしかないもんな。
それでも、俺の力を受け止め切れずに、そのまま王女が吹き飛ぶ。小兵に見えるかもしれんが、多分単純筋力だと、王女様より高いぜ? 俺は。
床タイルの上をバウンドして転がる。壁面に叩き付けられ、声に成らない呻き声を上げていた王女だったが、しかしそれでも脂汗をにじませつつもメイスを手掛かりに立ち上がった。
フーフーと息を荒げるネフェル王女だったが、その闘志を裏打ちするかのように、ゆっくりと足を前へと進ませる。
いや、俺の一撃をシールド越しに受け止めた方の左手、あれ、折れてはいなくても、罅くらい入ってるだろう。体勢の崩れ、宙に浮いていた所で、まともに俺の体重の乗った攻撃を受けたんだからな。
その証拠に、シールドは明後日の方向に落ちてるし、左腕はさっきからダラリと垂らしたままだ。
メイスを引き摺る様にして向かって来るネフェル王女。叩き付けられた時に斬れたのか、眉間や頬からも流血し、満身創痍とも言える姿だが、その目に宿る意思の為か、審判でもある兵士長は、ストップをかけない。
その闘志、心意気は良し!!
まだやろうと言うなら、幾らでも付き合ってやるさ!!




