非公式試合
遅くなりました。
申し訳ない。
王城の兵士の訓練所へと足を運び、借り受けた刃を潰したハルバードをぶん回してみる。
うん。バランスが違い過ぎてどうしたもんだろう。
かと言ってランスは基本馬上武器なんよなぁ。普通のランスだと【魔法】も撃てんし。
訓練所の外周の席では、兵士達が多少ざわつきながらも俺達の事を真剣に見つめている。御前試合なんかが有る時は会場にもなっている訓練所は、コロッセオの様に見物が出来るような作りになっていて、今は、俺と王女の立ち合いを見ようと城に居る手空きの兵士やら貴族やらが見物人として詰めていた。
いや、何でこんなに集まってるかね? 皆、暇なんか? この対決きめたのつい1時間ほど前だったよね?
嘆息しつつも片手でハルバードを構える。使い慣れている武器と言う意味では、ハルバードのソレが一番近いっちゃ近いんだが、重さのバランスがファティマと違い過ぎて違和感が酷い。
まぁ、辛うじて行けるか?
俺の前には2mを越えた巨躯の褐色美女。やはり、実用品だったらしい、さっきと同じドレスアーマー姿で、その手に持って居るのは、これまた巨大なメイスとカイトシールド……メイスってちょ、おま……
いや、本来の武器はモーニングスターだそうだから、“刃を潰した”武器ってぇ扱いなら正しいんだろうけど、どの道、一撃必殺系なのは同じだよなぁ。てか、殺意高過ぎだろう。女王様よぉ。
「トール、様、ガンバ!!」
「わんわん!!」
「アオン!! ワン!!」
『【応援】オーナー!! ぶちかましてやるデス!!』
「が、頑張ってください!!」
「やっちゃえぇ~」
『ぶっとばせぇ』
貴族用の観覧席で声援を送ってくれてる皆に軽く手を振る。その一段上の観覧席には国王様と王妃様。それと、何処から聞きつけたのか、第一王子の姿も。第二王子の方は見当たらないが、まぁ、さっきの今で、王族全員がこんな所に集まるってのも可笑しな話だしなぁ。
俺が半目でそっちを見てると、王女が俺に声を掛けて来た。
「余裕、なのだな」
「戦場じゃぁ、パニックを起こしたヤツから脱落するんでな」
俺はニヤリと笑ってそう返す。例え、どれ程身体は滾っていたとしても、頭は冷静じゃ無けりゃ、相手の攻撃なんざ捌けんからな。我武者羅に武器振ってて何とかなるんは、ツキの有る内だけなんだわ。
「確かに、な」
王女が体を隠す様にカイトシールドを構える。俺は、ハルバードを肩に担ぐ様にして、半身に成った。
俺達の準備が整ったと見て、唐突に審判へと指名された兵士長が、右手を高く掲げる。訓練中止させた挙句、こんな面倒な事に巻き込んじまって、正直申し訳ないと思っている。文句は国王様へ言ってくれ。是非とも。
「では!! これよりトール・オーサキ辺境伯殿とサウペスタ王国王女、ネフェル・オーライド・ゼル・サウペスタ殿下との非公式試合を開始する!!」
兵士長の宣言に、見物人の声がひときわ大きくなる。
……へぇ、王女様、ネフェルってぇ名前だったんだ。




