認識違い
大きさってのは、そのまま力になる。巨大な質量が動くってのは、近距離に居る者にとってかなりの脅威だろうさね。
だが、それも織り込み済みでタンクに名乗り出たんだろうから、頑張ってくれとしか言いようがねぇんだよ。
ファティマでの一撃は、邪竜の脚を吹き飛ばし、仰け反らせる事に成功した。ただ、そのせいで、角を捕まえてた二人の内、淫魔の方が吹き飛ばされた。だがなんだ「いや~ん」て。
正直悪いとは思う。だが俺は謝らん。だってバフォメットの方は耐えきったんだからな。体ごと持って行かれはしてたが、その後、強引に地面に押し付けてた。本当になんちゅう膂力だ!! このチート魔族が!!
これが、怪人態での本気の力って奴かよ!!
おかしいよな、俺も一撃で半径300mからのクレーター作れる位の膂力が有るはずなんだが、全く敵う気がしない。
てか、ゴモリー!! 吹っ飛ばされ方に緊張感がなさ過ぎだ。思わず脱力しそうになったわ!! むしろこっちが謝罪を要求したいっちゅうの!!
邪竜くらいの巨体だと、身動ぎするだけでも結構な威力になりやがる。本当なら、弱点となる場所に致命傷となる一撃をぶち込みたい所だが、中々そうはいかなかった。
最低でも、大振りの一撃が叩き込める位には弱らせんと成らんか。
どちらかと言えばインファイターな俺だが、今回はヒットアンドアウェイを繰り返すしかない。そう言う意味ではロボバトラーはお手本の様な攻撃をしている。
決して無理をせず、穴を穿ち距離を取る。その後にロボウィザートが魔法を放つからってのもあるだろうが、流れる水の如くってのは、ああ言う動きなんだろうさ。
俺もチャンスが有れば、渾身の一撃を叩き付けてはいるが、身体の太い部分に対してだと、どうしたって分断するって所までは行かない。
それに邪竜も、魔族程じゃないが回復できるらしく、さっき切り落とした前脚が再生しかかっている。
大きな見える部分でそうなのだから、他の傷の付いた場所も同様だろう。
回復する大ボスって理不尽過ぎだろ!!
踏み付けに来る脚を避け、薙ぎ払いに来る尻尾を捌き、近付いては外殻を切り潰す。
簡単な作業の様に見えるだろうが、想像してみてくれ。自身と同じ太さの鉄杭の雨が降る中、横っ飛びで飛んで来るワゴン車を避け続けながら、ダンスするコンクリートのビルに鶴嘴を振るい続けなきゃならんってシュチュエーションを。
これでも脚の一本を吹っ飛ばしてるおかげで、反対側のロボバトラーよりは手数は少ないんだぜ?
「よくあれだけ避け続けられるもんだわ。元聖武器筆頭は伊達じゃねぇって事か?」
『【申告】サー、ですが与えて居るダメージはこちらが上です! サー!!』
本当に負けず嫌いだなファティマ。だがな、それは俺もだ!!
さっきまで以上にプラーナを濃く、速く、深く練る。体内を循環したプラーナが接続した部位を通り、オファニムにも巡り、オファニムはソレを加速循環し、加速されたプラーナが、俺をさらに活性化させ、その活性化して溢れるプラーナをさらに濃く、早く、深く練り循環させ、それをファティマとオファニムにつぎ込む。
熱量の上がったファティマは暗赤色に染まり、さらに切れ味が増して行く。
それは、邪竜の身体に刻まれる傷の鋭さを見れば一目瞭然だ。
攻撃は遅々としているが、確実に回復量を上回っている手ごたえがある。俺達の攻撃は次第に調子を上げているし、聖武器達の攻撃は、安定してダメージを与えている。
確かに、針の穴を通す様な精密さと、集中力こそ要求されるが、この布陣のまま攻撃を与え続けていれば、邪竜を倒せるはずだ。
そんな、安易な思考がいけなかったのか、次の瞬間、バフォメットが、邪竜に吹っ飛ばされた。
「どうした!! バフォメット!!」
「……」
さっきまで、バカげた膂力で邪竜を押さえ込んでだバフォメットが、あまりにも簡単に宙を舞い、受け身もたらずに落下して転がった。
何があった? 邪竜の方から、何か特別な攻撃が有った様には見えない。
強いて言えば、唐突にバフォメットの力が無くなったかの様な……
そこまで考えて、俺はハッとする。そして慌ててバフォメットとゴモリーの姿を確認した。
「やっぱり……」
二人ともが怪人態が解け、魔族としての姿をさらしている。気を失ったか、それとも……いや、ネガティブな予想は置いておこう。
つまり、二人とも、怪人態を維持する力が無くなっている、と考えて良いだろう。
考えれば当たり前だ。邪竜は周囲のオドを常に吸収し続ける。そして魔族は高濃度のオドの塊である。その上、魔族二人だけ邪竜のオド吸収対策をしていない。
飄々としていて、顔色を変えることもなく戦っていたから、なにがしか対抗手段をしているだろうと思ってしまった。
まさか、耐えているだけだったなんて、誰が思うかよ!
いや、言い訳だ。そうは見えない言動も多いが、彼らには人間よりも上位者だと言うプライドがあった。
だからこそ、耐え切る自信もあっただろうし、耐えきるつもりだったんだろう。
だが、予想以上に邪竜が餓えていたか、予想以上に時間がかかったか……
油断、とは言わない。安定して攻撃をし、安全を期して行うのが“狩り”だ。
むしろこれは、俺が認識違いをしていたって話だ。
今、行っているのは“狩り”じゃない。生存をかけた“戦争”だったんだ。
そうだ! 生存戦略だったんだ。必死で喰らいつき、血肉を啜り生き残る。
それも、俺だけが生き残れば良いってだけの話じゃ無い。
邪竜をぶち倒して、俺達が生き残る!!
倒れるまで力を尽くしたバフォメットに報いるためにも! 俺の後ろにいるイブや犬達、エリス達の為にも!!
「俺が!! 殺る!!」
『【修正】サー、俺達です。サー!!』
「……だ、な」
結界があるからって、何処かで守られているなんて油断が有った。
だが、ここからは死に物狂いだ!!!!




