伝説の赤巨神
瞬間、視界の全てが赤い光に包まれ【邪神】の嗤い声が止まった。全ての対外時間が引き延ばされているかの様に、事象がスローモーションで動き、それとは真逆に、俺自身の思考は加速して居るかの様に鮮明に成って行く。
視界や聴覚と言った物とは違う感覚で、周囲を捉え始め、その感覚が広域へと広がって行く。
何だ? これは!!
成程、【邪神】は、反逆と反骨を嗜好としている【邪神】なのか、だから……
いや、何故、俺はそんな事まで理解している?
『ここまで、たどりついたねぇ。やっぱりとーるんは、やればできるこだぁ』
セフィ?
全ての外感覚が間延びし、自身の内感覚が加速し、全ての情報が雪崩れ込んで来ている様なその時間の中で、その声だけがハッキリと響いた。
『かみのりょういきに、いっぽをふみいれたおいわいだよぉ。でも、まだ、からだがついてこないだろうからぁ、あとはまかせておねむりぃ』
優しく包み込む様な、そんな声が聞こえ、次の瞬間、俺の意識は暗転した。
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「知らない天……いや、止めとくか」
ミーム化し過ぎてて、もはや、食傷気味な一言を途中で止め、首だけを動かして周囲を見る。知らないのは天井だけじゃないねんで、と。
清潔そうな淡いクリーム色の壁と高級そうな調度品、そして、俺の寝かされている天蓋付きのベット。周囲にこそ人は居ないが、扉の外や、隣の部屋なんかには、馴染み有る気配がする。
あー、ま~た気を失ってたんか、俺。
ようやっと残心が出来る程度に成長出来たと思ったんだがなぁ。
まだまだだったわ。
そんな事を考えながら項垂れていると、隣室に繋がる扉がガチャリと開き、イブとミカ、バラキが飛び込んで来た。
イブが俺を見て目を見開き、眦に涙を溜め、ミカは頭を擦り付けて来て、バラキは俺の太ももに頭突きをして来た。いや、痛いから、地味に。
正直すまんとは思う。だが、反省はすれども後悔はしない!! あっ、ちょ、バラキさん、本気で地味に痛いから!
俺とバラキが、そんなやり取りをしている横で、イブがグスグスと鼻を鳴らしている。
「トールっ、様、はっ!! いつ、もっ!! いつ、もっ!!」
「うん、悪かったって」
この後、ティネッツエちゃんやラミアー、セフィも乱入して来た。ティネッツエちゃんも、泣きながら『心配したんですよ』と滾々と説明し、ラミアーは無言でしがみ付いて来た。セフィは……ニヤニヤしてんじゃねぇよ。
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俺のぶっ倒れた後の始末はジャンヌと聖弓がしてくれたらしい。とは言え、国王君や聖女さんに説明したりって感じらしいが。
多分、それと一緒に、今回の顛末の口裏を合わせてるって所か。ジャンヌと聖弓なら、離れてても【念話】出来るし。
「【邪神】は何とか押し返せたんだな」
ぶっちゃけ俺は、気ぃ失ってて覚えて無いんで、事の顛末はまるっきり分からんのだが。だが、俺がそう口にした途端に、部屋に来た全員が『えっ』って感じの表情に成る。いや、セフィだけニヤニヤしてるけんども。
「トール、様、巨神、成ってた」
は? え? 一寸意味が分からないんですけれども?
何よ、巨神に成ってたて。
困惑して皆の顔を見るが、俺以上に、皆は困惑している様子でこっちを見ている。
いや、セフィだけはニヨニヨしてやがるな。コイツ、分かってて、黙ってるんだな。まぁ、良いけど。
で、皆の話を統合すると、何かね、赤い巨大な人型に成ってた、らしいよ? 俺。
で、その巨神状態で、【邪神】の亀裂を殴り壊したらしい。覚えてないけど……
赤い、巨神かぁ……ジ〇神様かな?




