草っても神
【プラーナオリジン】の“結晶”。透き通った赤味を帯びた黒のソレが、俺の周囲を回っている。
ヌルリとした感覚、ああ、また目と鼻から血が流れているのか。だが、見えなくも聞こえなくもなっていないだけましだ。
「いっけええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
俺は、周囲に舞っているソレを灰色の靄へと突っ込ませる。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッッッッッッ!!!!
“結晶”、いや、【クリスタルネイル】とでも言おうか、それは、灰色の靄と接触すると、スパークしたかのように火花をまき散らし、ソコに穴を穿つと、返す刀で灰色の靄へと再突入を果たすを繰り返し始めた。
無数の【クリスタルネイル】によって、次第に灰色の靄は削られて行く。だが、【クリスタルネイル】の方も、その内包した【プラーナ】のエネルギーを消費しているのか。その体積を落としていった。
やがて、灰色の靄も【クリスタルネイル】もほぼ消滅する。
『おお~、やったかぁ~?』
「まってセフィ、それフラグだから」
ラミアーがそう言うのが聞こえた。うん、俺もそう思うし、そもそも【邪神】本体へのダメージは無い。
『しってる~』
って、わざとかよ!!
俺達の会話が聞こえてたってぇ事じゃ無いだろうが、【邪神】の亀裂を中心に空間自体が振動したような衝撃が広がった。
体の芯から揺さぶられた様な衝撃。これ、一寸弱ってる様な奴なら気を失えるダメージが有るぞ!?
実際、ラミアーの【念動障壁】の中に居るにも拘らずウィキシュはガックリと気を失ってるし、ティネッツエちゃんも四肢をついて息を荒げている。
ただ、イブは歯を食い縛って耐えて居るし、犬達は対抗するかのように【邪神】に向かって吠えている。
ただ、そうした状況に成っているにも関わらず、俺はどこか場違いな感想を抱いた。
『笑い声?』咄嗟にそう感じたのだ。
『よゆ~しゃくしゃくぅ』
セフィだけが俺と同じ様にそう思ったのか、他の全員が、時空震とも言うべき現象で少なからずダメージを喰らい、一様に苦しそうな表情を浮かべて居る中で、憮然とした様子でそう口にする。
ああ、そうだったな、何時もの天然幼女っぷりに忘れてたが、こいつも“神”と称される程の【竜種】の分身体だったわ。
そもそもの知生体としての“格”ってヤツが違ってるんだろうさ。
俺達がそれでも態勢を立て直そうとしていた時だった。【邪神】亀裂から、ブワリと灰色の靄があふれ出す。その表面はレイス程ハッキリとした人型ではなくて、半ば崩れ落ちた様な、だからこそ、本能の根源的な厭らしさと嫌悪感を催すソレが、まるで魂に直撃する様に、意識にダイレクトな怨嗟の声を響かせてきた。
『らるゔぁ……』
ラルヴァ? ローマの……悪霊に成れなかった邪霊だったか?
成程、執拗に相手を弱らせるだけの霊だったか? 確かにそんな感じだな。だが、霊だって言うなら!
「聖弓!!」
『【不可】ダメです!! あれは冥界から弾かれた霊ですわ!! 【ターンアンデット】は、冥界へと行けない霊を迷わない様に送るモノなのです!! すでに、冥界に拒否された霊は、送る事が出来ないのですわ!!』
マジか!! 冥界から弾かれた魂。要は『悪人ジャック』と同じ、何処にも行けない魂って事かよ!!
送る先が無ければ【ターンアンデット】は使えない、つまりはそう言う事か!! てか、こっちの対処方法をみて、対処できない攻撃をして来るか!!
だが、まだ、手段が無くなったってぇ訳じゃない!!
行く先がないと言うなら、消し去るのみ!!
俺は【プラーナ】精製しながら、高速で循環させる。キュオオオオォォォォォォン!! と甲高い音が響き、全身のスリットが明滅を始めた。
そして再び俺の周囲に【プラーナオリジン】の暴風が吹き荒れる。
プシャッと小さな水音がする。
視界が赤く染まり、光が映らなくなった。だが、視える。
これも、いつもの感覚に成って来たな。うん。笑い事じゃぁ無いってのは分かるんだ。
けど、何度もこうやって、肉体的限界を突破したからこそ分かる。まだ行ける。
なら、俺のやる事なんざ、最初から決まってる。
俺の手の届く限り手を伸ばすってぇだけの事だ!!




