その為の【力】
レイスの元に成る灰色の靄が王都の上空に蔓延して行く。いや、本当に光化学スモッグみてぇ。
【ターンアンデット】が効果が無いとなると、【物理】か【魔法】……特に【魔法】が有効なんだとは思うんだが、前世のゲーム的知識だと。
こっちがレイスを割と簡単に対処したせいなのか、【邪神】からのプレッシャーが強くなる。俺はまだ、背筋にビリビリとくる悪寒が増した程度だけれど、他の人間がどうなっているかまでは分からない。
少なくともラミアーの【念動障壁】内に居るティネッツエちゃんや女狐は多少顔色が悪いって程度で何とかなっているってのは確かなんだが、それ以外の人については、無事を祈るしかない。
いや、少なくとも王都外縁部の市井の人々については、聖女さんも侍女さんも居るし、聖騎士の人達も居る……いや、だからと言って対応できているかどうかまでは分からないか。
そもそも、ラミアーだって、ああ見えて規格外と言って良い能力を有している。
そのラミアーの【念動障壁】で辛うじて抵抗できる様なプレッシャーだ。その上で灰色の靄が襲い掛かってきたとなれば、その対処にまで手が回るかどうか。
それに関しては、王城内の方が不安要素が多いのも確かだ。一応、魔導師団員は居るが、そもそも【魔力】切れで、城壁内へと送られた者達な訳だし、この短時間じゃ、まだ回復もしてないだろう。
それ以外の魔法が使える貴族達にしたって、戦闘特化じゃない分、その能力的には不安が有る。
そう成ると、取り敢えず今、何とかしなけりゃいけないのは目の前の灰色の靄なんだが、俺達が黒の腐食に対応している限り、そっちにまでは手が回らん。
『【報告】オーナー、アレを見るデス!!』
ジャンヌの言葉に王城の方を見る。と、そこから多少弱々しいながらも、攻撃魔法が飛び交い、灰色の靄の迎撃を開始していた。
この、【邪神】が降臨し、プレッシャーが撒き散らされた状態に成ってから、結構な時間が経っている。その上、今しがたそのプレッシャーがさらに増したばかりだ。
にも拘らず、城内の貴族連中は、まだ反撃するだけの気力を持ち合わせているって事か。
それはつまり、国王君も宰相さんも諦めていないって事だろう。
この国のトップが、早々に弱気に成り、諦めていたなら、その指揮下の貴族だって、こんな風に反撃なんざしてない筈だ!!
それはつまり、国王君と宰相さんは、俺達が勝てるんだと、何とか出来るんだと信じてくれているって事な訳で……
ああ、勘違いしていた。彼等は守られるってぇだけの存在じゃぁ無い。俺の家族の様に、こうして隣に立って戦っているって訳じゃぁ無いが、それでも一緒に戦ってくれているって事には変わりなんざ無かったんだ!!
なら俺だって、現状を維持するだけじゃなく、彼らの奮闘に答えられるだけの何かを見せなけりゃいけないよな!!
今足りて無いのは、絶対的な手数だ。 もっとだ!! もっと手数を増やせれば!! それも、【プラーナキャノン】に、そしてイブやジャンヌの【ファイアランス】に匹敵するだけの威力のある!!
そう思っていた俺の中で何かがカチリッと嵌って繋がる。【邪神】を退かせられるだけの威力を持った大量の……
そうして、ほぼ無意識で体内の【プラーナ】を循環させ、精製していった。
循環循環循環循環循環循環循環循環!! 精製精製精製精製精製精製精製精製!! 循環循環循環循環循環循環循環循環!! 精製精製精製精製精製精製精製精製!! 循環循環循環循環循環循環循環循環!! 精製精製精製精製精製精製精製精製!! 循環循環循環循環循環循環循環循環!! 精製精製精製精製精製精製精製精製!!
やがて、俺の周囲に【プラーナオリジン】の風が吹き荒れる。それが俺の周囲で凝縮され濃厚に成り、あの時と同じ、いや、今はもっと純化した【プラーナオリジン】の“礫”いや、“結晶”へと凝固て行く。
「……きれい」
『【呆然】オーナー、これは、なんデス?』
俺の周囲には無数の【プラーナオリジン】の“結晶”。ああ、あの時は、半分は意識が飛んでいたが、そうか、あの時も、こうして、俺の周囲で吹き荒れていた【プラーナ】が、俺の“想い”に反応して、【邪神】に対抗する為の【力】を形作っていたんだな。
俺は、本能的にそう直感した。




