腐食させる者。ただしベルゼブブではない
イブの放つ【ファイアランス】が次々に空中に空いた亀裂へと着弾……してる様には見えるんだが……
効いているのか居ないのか、その辺りの判断は全くできない。実際、存在としてのステージが違い過ぎて、相手に成っているのか居ないのか。
ただ、この世界に顕現する為には、確実に、この世界の物理……いや、この世界の物理さん有給取ってる疑惑有るから、まぁ、法則には則ってるとは思うんだがね。
でなければ、俺だって、あの時押し返せなかっただろうし。
俺は、ラミアーの【念動障壁】から飛び出し、【邪神】へと向かい、宙を駆ける。
『【警告】オーナー、拙いデス』
【プラーナ】を精製しつつ、体内循環をさせる。濃く濃く、速く速く。俺に同調しているオファニムとケルブ、そしてジャンヌの表面にスリットが開き、そこを明滅しながら【プラーナオリジン】が流れる。
と、ジャンヌから、やや焦った様な声が聞こえた。
見れば、【邪神】の開けた亀裂の周囲の空に、じわじわと黒い何かがしみだしてる様に見える。
「何だ?」
『【解析】空間が、腐食していってるデス!!』
は? 何それ、どう言う状況よ!? 空間が腐食? 意味が分からんのだが!?
黒い腐食は、まるで空間の縁で溜まるのを待つように『プクリ』と脹らんで行く。と、次の瞬間。堰を切ったかの様に流れ出し、こちらに向かって、まるでガラス窓に付いた水滴の様に、えらい速さで伸びて来た。
「クッ!! ジャンヌ!!」
『【了解】デェス!!』
背中から接続された様な形状に形成した【エクステンド】をあたかもキャノン砲の様に正面へと伸ばし、そこから精製した【プラーナオリジン】による【プラーナビーム】を放つ。と、同時にジャンヌを前へと突き出す様に掲げ、合計60にも及ぶ【ファイアランス】をその黒の腐食へと放った。
ジュッ!
いや、何『ジュッ!』って、何で消火した様な音出してるんよ!! いや、多分、対消滅的な何かだとは思うけど、こっち、結構力込めて撃ち出したんですけど!? 何、その軽い音!!
俺の横をイブの放った無数の【ファイアランス】が通り過ぎ、空間の亀裂へと炸裂する。だが、これも、小さな音をたてただけで消滅した。これ、今俺の攻撃が消されたのと同じ理屈なのか!
この距離まで近付いた事で、はっきりと見えた。空間の縁に溜まった、黒の腐食で迎撃してやがったのか!!
その事実に俺は二ヤリと笑った。
「迎撃をしなけりゃならないってこたぁ、攻撃は“有効”だって事だよなぁ」
確かに、歪で異質な気配そのものは、この間俺が遭遇した【邪神】よりも強いかもしれない。だが、ちゃんとこの世界の法則には、合わせてくれているらしい。
こちらの攻撃が“有効”だって事は、つまりは、こちらの世界の物理法則に合わせて“顕現”されていると言う事な訳で、それはつまり、顕現している部分だけでも破壊する事が出来れば、押し返す事も可能だって事な訳だ。
取り敢えず、あの黒の腐食はヤバイ。こっちの攻撃をほぼ無効化してる訳だからな。だけど、対消滅に持ち込めるってのなら、後は相手との我慢くらべって事だわな。
さてさて、仮にも“神”と呼ばれる相手に対して我慢くらべかよ。
「まぁ、良い。チキンレースの開催だ!!」




