不可能を可能にする子供
【念動障壁】の外側では、何十、何百と言う疑似ゾンビが蠢き、城壁へと群がっている。
「こっちに見向きもしませんね」
魔導師団団員の1人が、そうこぼした。おおよそ、疑似ゾンビには大まかな命令くらいしか出来ないらしく、それは当初から『王城を襲え』と言った物だったんだろう、兎に角、徹底して王城に襲い掛かり、城壁を乗り越えて内部に侵入しようと言う事だけしかしてこなかったんよね。
そして、それは今も継続中であるらしく、こっちの事は『邪魔なオブジェクト』的な扱いで、突っ込んで来たり乗り越えようとはすれども、襲って来るってぇ雰囲気は無い。
まぁ、これ、ラミアーの【魔導障壁】がちゃんと機能してるって事でもあるんだわ。
いやまぁ、普通にこの数が周囲を取り囲んでいる状態だってのも充分厄介なんだけんどもよ。これで【魔導障壁】が無かったとしたら、当たり前の様に襲っては来るんだわ。
恐らく、少しでも消費した【魔力】を補充しようとしてなんだろうけど、嚙みついて来ようとするんよね。
当然だけど、多少【魔力】を消費した所で、唐突に疑似ゾンビがぶっ倒れたりする訳じゃない。そんな風にぶっ倒れる前に、周囲の人間を襲って【魔力】を補充しようとするからな。
だからこそ、【純魔力】放出で、一気に【魔力】をこそぎ落とすのは効果的な手段に成っている訳だ。この方法を開発して無かったら、対疑似ゾンビはもっと面倒臭い事に成ってただろうさね。
多分、普通のゾンビを相手にするのと同じ事に成っていたんじゃないかなぁ。いや、普通のゾンビと遭遇した事は無いんだが。
まぁ、首元に齧りついてエネルギー源を吸い出すのはラミアーも一緒なんだがね。てか、そう言った魔物って多いよな。
「一緒にするなぁ! あたしのは愛がこもってえるんだぞぉ!」
「あ、はい」
疑似ゾンビや普通の魔物の方には愛は無いらしい。当然か。
それはさて置き、そう考えると、魔物が人間とか襲うのって、【魔力】補充的な意味が有るんかね? 普通の動物とかより、【魔力】の量が多いし。
まぁ、その辺の考察はまた今度にしよう。今、忙しいし。
数が多いが、その処理する速度自体はこれ以上遅くは出来ない。結構な無茶と無理とをさせる自覚はあるが、これをどうにかできなければ正直、王都は終わる。
貴族が居れば、どうとでも成るってぇ考えのお偉方も多いが、実際に王都の生活を支えるのは市井の人々だ。
貴族だけ生き残って、明日のパンが焼けるのか? って話なんよ。
困ったら、貴族は自領に戻れば良いって主張してた人も居るが、法服貴族なんざ領地が無いじゃろが。そう言う人達はどうすんのよ?
同じ事言ってた貴族が、国王君達も直轄領の大きな都市に移動すれば良いとか主張してたけど、国王君が移動した所で、結局国の中枢マヒしたまんまじゃんかね。あらかじめ都市機能を移動と言うか遷都するとかって話でもなければ、単純に混乱招くだけだってのよ。
まぁ、愚痴はこの位にしておこう。
疑似ゾンビの浄化要員は、魔導師団の皆さんとイブ、ジャンヌ及び聖弓の合計11名。それに対し魂の恢復要員は俺と犬達の1人と4頭。圧倒的に足りてんのだがねと言う訳で俺の秘策。
『【苦笑】無茶をしやがるぜ、デス』
「トール、様、なら、当た、り、前」
幾度となく俺のやり方を見て来たイブとジャンヌはまだしも、他の皆さんはドン引きしてる。それは良いから手ぇ動かしてくれ。
一先ず両手で一人ずつへの【プラーナオリジン】注入。もっともこれだけでもウィキシュから言わせると『ありえない』事らしい。まぁ、やってる事考えれば、両手で別々の文章書いてる様なものらしいし。
それでもまだまだ手は足り無いんで、オファニムとケルブにも御出馬願っている。この二人に【エクステンド】で作った通信ケーブルを接続。特にオファニムは自立行動できないから、【プラーナ】マシマシで俺が行動をコントロールしての【プラーナオリジン】注入。細かい調整はオファニムとケルブに任せる。【プラーナオリジン】の供給元は俺だけど。
これが、思いついてからちょっと練習し、取得した技術! “有線コントロール”だ!!
はいそこ、『有〇ビット』とか言わない!
この技術を使う事により、俺一人で4人まで魂の恢復が出来るのである!!
「うわぁ……」
これを見たウィキシュが思わずと言った様子で声を漏らした。他の団員さん達は何とか堪えてるっちゅうのに!!
「良し、ウィキシュ、おまいとはもう一度OHANASHIが必要だな!!」
「ひえぇ!!」
この女狐、“わからせ”ちゃるわ!!




