予想できた最悪
市民の救出……うん、もう救出と言い切ってしまおう。救出自体は順調に進んで行ってる。籠城戦の弱点は、増援が来ない状態を長く続けて居る事で、兵士自体の士気が低下する事と、補給が無い状態が続くことでの体力、気力の低下を招く事。それと自分達から積極的に攻撃が出来ないにも関わらずに、相手からの攻撃がいつあるか分からない為に、精神的苦痛が酷いって事だろう。
ただ、現状、増援が来るって事自体は無いが、補給は俺がちょこちょこ行って来れるし、向こうからの攻撃のパターンがほぼ決まっちまってる事及び、それに対する有効的な手段も確立してる為に、連戦連勝状態で、士気は高い。
ただねぇ、一寸、上手く行き過ぎてるってぇ気がするんよね。
『【納得】好事魔多しと言いますから』
『【同意】勝って兜の緒を締めろというデス』
いや、まだ勝った訳じゃねぇやろうが。
これが、黒幕の魔族達が諦めたが故って言うんなら問題は無いんだが、こう、こまめに疑似ゾンビを回復させてるってぇ状態だと、どうにも諦めてるってぇ感じじゃ無いんよね。
ただ、俺が聖女さんん所行って、避難キャンプで噂話なんかを聞いて回ってる限りでは、不穏な空気が漂ってるってぇ感じもない。
つまりは噂話なんかを操作してるオンディーヌは機能してないって事で、それは彼女が今は作戦に参加していない可能性が高いって事でもある。
いや、もう黒幕の魔族は別の作戦に取り掛かってて、後始末ってか、俺達に対する時間稼ぎをしてる可能性ってのも有るんだが、それにしても、ルールールーからの報告にも、特に何か不穏な変化が有る様な物は入ってない。
いや、基本暗躍してる奴っぽいから、こっちが掴めてない“だけ”ってぇ可能性も有るんだけんどもよ。
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そこはかとない不安感が、杞憂じゃなかったってのが分かったのは、それからすぐだった。
「むぅ!!」
『【困惑】向こうの回復スピードが速くなってるデス!』
『【驚愕】魂を触媒にしてるのは相変わらずの様です。これ、大丈夫なのでしょうか?』
「……そう来たか」
単純にして最悪な方法を選択してくれるもんだ。【純魔力】放出で倒したはずの疑似ゾンビが、そう時間を掛けずに復活して、襲い掛かって来る。
こうなると、単純に城内へと搬送する時間が取れない上に、絶対的な【魔力】持ちが少ないこっちは、【魔力切れ】に成っちまう人間も多くなる。
さらに質が悪いのは、今までと同じく本人の魂を触媒にして【魔力】を増やしてる為に、魂の消費が激しくなっているってぇ事だ。
そう、単純に、こっちが攻撃すればするほど、短時間で、本物に近いゾンビへと変貌してしまうってぇ事に成る訳なんだわ。
『【質問】どうするデス?』
「お前らは全員、【圧縮魔力】は使えるんだよな?」
「ん!」
『【肯定】そう、デス!!』
『【同意】当然です』
イブとジャンヌだけではなく、魔導師団の奴らも力強く頷く。
俺は、ニヤリと笑った。
「良し、なら、打って出るぞ!!」




