炊き出しに来てみた
「トール・オーサキ閣下!! お待ちしておりました!!」
「……閣下は止めてくれ」
神殿騎士さんの敬礼に、苦笑しながらそう返す。いや、厳密に言えば間違ってるとも言えねぇんだけんどもよ。
俺、外交権限とか貰ってるし。国王陛下から。
特に獣人の王国だと、直接、国王君や宰相さんとやり取りしてる関係上、俺が窓口に成る訳だし。
それは兎も角、俺は今、獣人の王国王都の外縁部にある、光教会が炊き出しをしてる場所まで足を伸ばしてみたんよね。色々と話したい事も有ったし。
まぁ、俺1人だけだったら、なんぼでも空中走って来れるでな。うん。ミカとバラキ、それとイブが悔しがってたが。
まぁ、イブの空中移動は色々と制限あるし、ミカとバラキは空中疾走、まだ出来んしなぁ。
んで、ミカとバラキが、ウリを引き摺って行ったのは、もしかして空中疾走をウリから教わる為やろか? ウリ、『たすけて』って顔してたが、俺にはどうにもできん。逞しく生きれ!
それはそれとして、俺がここまで来たのは聖女さんに話が有ったからなんよね。スーリヤには、今、この炊き出しや物資の調達なんかを頼んでる。まぁ、街の住人が殆ど疑似ゾンビに成っちまってる訳だから、都市としては完全にマヒしてるも同然だからなぁ。
ついでに王城の方に人が行かない様に、そして疑似ゾンビが来た時に対処して貰う為に、だ。
疑似ゾンビは“疑似”って事で、本来のゾンビの様に積極的に人を襲うってぇ訳じゃ無いんだが、それでも、命令次第では普通の市民を人質にしないとも限らない。どの程度でそこまで至るかは分からないけど、注がれてる魔力量が多ければ、操ってる奴の意志に準じて動くみたいだしな。
その程度を過ぎっちまえば、完全に傀儡化するし、そこまで魂を削られた挙句【魔力】で汚染されっちまうと、少なくとも身体は普通のゾンビと変わらなくなる。
まぁ、【ターンアンデット】が通用する様になる。つまりは“死んでいる”って状態だな。
既に、いくらかの冒険者はその状態だった訳だし、もう結構拙いってのもチラホラ居るだろう。幸いと言って良いのかは分からねぇけど、王城進行が始まった後は、誰も例の“薬”は飲んでないだろう。なんで、これ以上、悪い状況には成らないと思うが……遠隔で【魔力】を供給できるんなら、魂を削る事くらいは出来そうだしなぁ。
「お久しぶりです。トール様」
「うん。面倒な所を頼んじゃって悪いな」
「いえ、民衆を救い施すのは、我々教会の使命の一つですし……」
スーリヤが『ホゥ』と息を吐く。いや、本当に美犬顔だよな。こう言う愁いを帯びた表情が良く似合う。
……あれ? どこかで犬の遠吠えが聞こえた様な? ……気のせいか。
「【禁忌術】を扱うネクロマンサーの類は“神敵”ですので」
まぁ、そうか。
「それでも、負担を強いてるってのには変わらんだろう?」
「フフッ、イネスが張り切っていましたよ?」
あ-、侍女さんはなぁ。何と言うか、色々とやり過ぎたとか思ってはいるが、あれはあれで、必要な事だったしなぁ。
うん。これ以上意味の無い事を思い悩むことは止めよう。それよりも、これからの話だ。




