国の仕組みを考える
「無罪放免、と言う訳には……行かないのだな」
眉間の皺を深くして、国王君が言う。
まぁ、操られてるだけの相手だと思っている限りは、そう言う感想が出ても可笑しくはない。
けど、なぁ。
「そもそも、今は疑似ゾンビと言う半ば被害者には成って居るけど、元々は、国の方針に異を唱え、あまつさえ、自分達の判断だけで、獣人以外の人種の排斥を内々に進めていた冒険者と、それを支持していた市民達だからな。そう言った事を考えると、最初から敵対していたと言っても過言じゃ無いんだからな?」
「それは……分かってるのだが……」
幼いって事を差し引いても、優しい少年だよなぁ。同じように王族と言ったって、ここまで色々と居るもんだと思う。俺が出会ったお偉いさんの中でも、断トツで優しいとは思う。もっとも、それだけじゃ王様ってのはやっていけないんだけんどもさ。
いや、俺、各国の王族やら皇族やらと関わり過ぎじゃね? いや、今更だし、まぁ良いけど。
「確かに、現状を考えれば、国王様が同情する気持ちも分かるけどさ。だからと言って何の罰も与えないってのは駄目なんだわ。『罰』が有るから、人は『罪』って物と向き合う事が出来るんだからさ」
「え?」
『罰』が『罪』を犯した人間にとって“良い”事だってのは、国王君の頭の中にゃ無かったっぽいな。
罰せられなければ、その行動そのものが罪であると気が付かないって事は往々にしてある。これをやれば人が困るって事を自覚しなければ、良心や道徳心ってのは育たないんよね。
そう言う意味では、国王君はちゃんと教育されて育って来たんだろうさ。
だけど、その自覚なない人間ってのは、他人の物を奪ったとしても、そこに感傷も罪悪感もない。当たり前だ。それが、“悪い事だ”って事自体が分からないんだからな。
「市井の人達だって、国の方針に異を唱える事が、何となくは“悪い”って事だと理解してたとしたって、その事で自分達の生活が脅かされる事が無ければ、絶対に“悪い”事だなんて分からん物なんよ」
「そ、そこまで愚かなのでしょうか?」
「愚かと言うか、政治と生活が結びついてるって事が理解できてないだろうさね。基本的に、自身の生活ってヤツが前提にあって、その上で、何となく色んな政治が関わってるだろうって程度の思考だろうからな。政治や法が有って、自分達の『生活』が保たれてるだなんて思っても見てないんじゃないかなぁ」
だからこそ、市民は目の前の事、例えば物流が滞って、食べ物が少なくなったとかその所為で税金が上がったとかって事は分かっても、何で、物流が滞った事で税金を上げなきゃいけないかって事まではちゃんと理解していない。
最も、その辺りは、王族や、法服貴族の領分だし、正しく理解してなくちゃいけないのは、むしろそっちの輩ではあるんだけどさ。
「だからこそ、物価が上がった、税金が上がったってぇ事に不満を持つことはあっても、そうやって王侯貴族が問題解決に向けて動いてるってぇ事を理解はしてないんよね。恐らく、物価が上がったから、御貴族様も自分達が物を買う為のお金を確保する為に税金を上げるんだって程度にしか思っちゃいないんじゃないかなぁ」
俺の物言いに国王君はショックを受けた様だ。まぁ、この辺は教育格差でもあるんだろうけどさ。
「でも、だからと言って市井の者達が愚かだって事には成らんのよ。その辺りは、全くの教育の差でもあるんだからな。そもそも、王侯貴族が暮らす為の税金、つまり金銭は、元々、市民が稼いだ物だって事も忘れちゃいけないだろうよ」




