初めての共同作業で生まれた物は
『【肯定】それは良い考えです! 個体名【エリステラレイネ】!!』
いや、ファティマ! お前も何言ってんの?
ほら、納得したって顔してんのおまいら以外、ゴドウィン侯しか居ねぇぞ!! エリスパパや他の聖武器すら懐疑的な顔してんじゃねぇか!!!!
って言うか、それ以前に何でエリスが作戦練ってるんだよ! 王様どうした!?
『【質問】サーからの疑問です。何故、個体名【エリステラレイネ】が総指揮を?』
「うぬ、防衛戦に当たって総指揮を取るのは、アンドロス侯が良かろうと思ったのじゃが……」
「いや、現状を打破すべく動けたのは姫だけです。現状維持すら出来なかった老骨が総指揮を執る訳には行きますまい」
「と、アンドロス侯が譲らんのじゃ。あ、父上は論外じゃぞ? 女にうつつを抜かして国を傾けかけた愚王に指揮なんぞ任せられぬのじゃ」
「その代わり、作戦指揮は取って居るでしょう? 国王には任せておけないと言うのは同意見ですが」
国王、胸押さえて倒れ込んでるぞ? まあ言いたい事は分からんでも無いが、あれはガープの策でもあったと思ったんだが?
と言うか、国王は、今は平気なのか? ゴモリーは別に【洗脳】やら【魅了】見たいな物は使ってなかった様だから、実質、素で淫欲に溺れてたんだろう?
『【疑問】それで国王は、今は大丈夫な状態なのですか?』
「そこは、オヌシ様を見習って、容赦なくOHANASHIしたからの」
ファティマがブルリと震える。うん、トラウマトラウマ。
国王の事は、エリスが平気だと言うなら、平気なんだろう。
俺としては、力を貸す事に否は無い。ただ、俺も公爵領だと結構微妙な立ち位置なんだよな。なんで、あんまり目立ちたくはないと言う事は有る。
さて、どうしたもんかね?
俺が眉根を寄せると、ファティマが人差し指をピンと立てた。
『【提案】サー、私に良い考えがあります、サー』
******
防壁の外では、【風魔法】によって拡大された声でお互いがお互いの要求を突きつけ合っている。本来なら一気呵成に王都を攻め落としたかったんだろうが、こちらの国王からの直接の誰何が有ったのであれば、返答もせずに仕掛けてしまえば、王弟と言えど批判は免れない。そもそも、国王側の堕落を責め立てている立場なんで、義に悖る行為はNGなんだろう。後になって卑怯者の謗りとか受けたくないだろうしな。
こればっかりは、迅速な対応が功を奏した形だ。
うむ、頑張れエリスパパ。なるべく時間を稼ぐとです。
そうやって言い合いをしている国王と王弟を防壁の上に何カ所かある待機場の窓越しに横目で見ながら、俺は聖武器姉妹の作業を見守る。
『【行使】【詠唱破棄】魔法名【クリエイトゴーレム】、なのデス』
ロボウィザードがゴーレムを作り出す。聖槍が変形してウィザードってどうなんじゃろ?
ゴドウィン侯は、「槍が勝手に魔法を使ってくれて便利ですな」とか言ってたけど。
それはともかく、目の前に140cm程のゴーレムが作られた。何の命令も刻まれていない真っ新な物だ。
「……」
俺が、それを無言で指さすと、ファティマは『【肯定】サー、彼と同じデザインです、サー』と言った。
そう、このゴーレム、俺の偽装鎧と寸分たがわないデザインだったのだ。
『【実行】【付与】いたしますわ。ネベル・エウプテル・セプツ・レーネ・アブ・コウクト・ベネン・ケルット・ラザー魔法名【エンチャント・ススペックテッドライフ】、ですわ』
それに、ロボシスターが、疑似的な“魂”を【付与】する。
本人曰く、シスターじゃなくて聖女らしいが……すまん。正直違いが分からん。要はシスター程度じゃ出来ん様な大魔法が使えるって事らしいが。うん。外観で分からんだろ? それ。
ちなみに彼女が聖弓でもある。
『【悲報】ワタシの出番がない件について』
聖剣なロボバトラーは今回出番なしで、部屋の隅で膝抱えてやがる。
なんか、姉妹内での序列があるらしく、前は聖剣が序列一位だったらしいが、今はファティマが最上位なんだと……理由は分からんけど。
てか、バトラーを名乗ってるって事は執事で良いのか? 家令でなく。そういや執事と家令の差ってなんだったけ?
何と無く執事って男性だけなイメージがあったんだけども。 家令の方がもっと広域的な?
それはともかく、俺は偽装ゴーレムの中に“搭乗”させられた。呼吸こそできるが、内部には光が射し込まず、真っ暗だ。
「……本当に大丈夫なのか? これ」
『【肯定】サー! サーならできます! サー!!』
興奮気味にファティマがそう言う。俺は、ため息一つ吐くと、能力全部乗せからの魔力装甲を発動する。
そこから偽装ゴーレムに物理的に繋がれる様にと、魔力装甲の四肢を接触するまで延長した。
グワッ、なんだこれ!? プラーナをゴッソリ持って行かれるぞ!! 体に添わせるんじゃなく、体形と違う形に変形させるとこんなにプラーナ喰うんか!!!!
だが、これで終わりじゃない。その上で、偽装ゴーレムにもプラーナを浸透させる。
疑似的な魂を付与していって言っても、真っ新なゴーレムだけあって、こっちのプラーナを【抵抗】する事なく受け入れてくれた。いや、むしろ、こちらのプラーナに合わせてくれている感まであるか。
プラーナが浸透し切り、何かが繋がった感を受けると、偽装ゴーレムの中にいるにも拘らず視界が開けた。
視界が高い。なる程、これが繋がったって事か。
ファティマの提案は、つまり、ゴーレムを疑似的な魔法生物にし、それを使い魔として使役すると言物だった。
使い魔と繋がれば、その視界の共有なども出来るし、俺が強化してやる事も出来ると言うのだが……
「いや、俺の使えるのはプラーナだけで、魔力は使えないんだぞ?」
『【肯定】サー! サーは私を強化する事も出来るのです!! 問題なくやれます!! サー!!!!』
と、何か他の姉妹の羨望の眼差しを受けながら胸を張っていた訳だ。
俺自身は半信半疑だったんだが、これは、ファティマが正解だった様だな。




