仮説を立てる
バタバタしていて遅れてしまいました。
申し訳ない。
迫って来る疑似ゾンビに当たらない様に右に左に手綱を捌く。どうせなら、ジョイスティックか十字キーにしてくれませんかね!! 細かい制御が、全く出来んのじゃがぁ!?
『【愕然】その発想は無かったデス……』
むしろ、その方が驚きなんだが!? なら、おまいらはどう操縦すんのよってぇ話なんだわ!!
『【当然】直接同調操縦ですが、それが?』
『【偽装】手綱を握ってるのは、フリなのデス』
うん。電脳の落とし子達に聞いた俺がバカだった。本当にAIなのかは知らんが。
『【警告】オーナー!! 前に人がいるデス!!』
「って、おわ!!」
疑似ゾンビと世の中の理不尽に気を取られて、こっちに襲い掛かってきた人影に気が付かなかった!!
このトール・オーサキ、一生の不覚!!
っ、避け切れなかった!! 引っ掛けたか!? 大丈夫か!? まさか、死んでないよな!?
『【記録】あ、あれ、冒険者ギルドでつっかかって来た獣人デス』
……ああ、アイツか、なら、良いか。タフそうだったし。多分大丈夫だろう。うん。
てか、ゾンビに紛れて襲い掛かって来たって事は、冒険者連中や、ヴォルフガングとやらは、この状況に納得してるって事か?
仲間が奴隷として売り渡された事に憤って、他種族を排そうとしたんじゃなかったのか? それなのに自分は、同族が被害にあっている。むしろ、積極的に巻き込んでるって状況を許容するってぇのか!?
いや、あの薬を服用して居たのは冒険者連中も一緒の筈だ。むしろ、一般市民なんかより大量に服用していたって可能性まである。
「……聖弓、冒険者連中に向かって【ターンアンデット】、唱えられるか?」
『【疑問】それは? ……そう言う事、ですか?』
「……」
『【了解】セルト・エウル・マルテュス・エラ・エル・カルティフェム!! 魔法名【ターンアンデット】!!』
俺の沈黙に、何かを感じたのか、聖弓が【ターンアンデット】を放つ。こちらに向かい、襲い掛かろうとしていた冒険者の何人かが、聖弓の魔法で歩みを止めると、そのまま倒れ込んだ。
やっぱり、こっちは手遅れだったか。
ゾンビの中にも、こっちを認識して襲ってくる連中と、そうでないのとが存在していた。それが示す可能性は、ゾンビにそれなりの知性があり、判断力を有してるってぇとこか、もしくは操ってるヤツが近くに居るってぇ事に成る。
一般市民のゾンビが、こっちが突っ込んで行った前と変わらず、城に対して真っ直ぐに進んでいるのに対し、冒険者ゾンビは、フレキシブルに俺達に対応してきた。この差が直接操られているかどうかってぇ差だったとしたら、直接操る事が出来るゾンビは、何が違うってぇ話な訳だ。俺は、その差ってのは、つまり、混ざっている【魔力】の多さによる物じゃないかと思ったんよね。
そして、その仮説は、大体正しかった訳だ。いや、まだ、本当に正しかったかどうかってのは分かっては居ないんだが。




