ガン!! ホーーーー!!!!
国王君の所まで行って来たサイレンが、『いつでもどうぞ』と言う伝言を伝えてくれる。一応、俺達が突っ込む時には、疑似ゾンビは無力化しながら行くつもりでは居るが、それでも、完全に無力化が出来るかは分からんし、中の方からも警戒しておくのは、それ程無駄って訳じゃないだろうさね。
流石に門を完全に開くって所まではいかなくても、俺達が中に入るだけの隙間は作って貰わんとどうしようもないんで、その辺は頑張ってくれとしか言い様がない。
応援って言ったって、こんな少人数じゃ、劇的に何かが変わるってぇ事もないだろうし……
『【困惑】謙遜が酷すぎませんか?』
『【嘆息】ある意味、通常営業デェス』
それに、俺達の持っていける補給物資なんざ雀の涙程度な訳だが、それでもヴィヴィアンに無理言って用意して貰った各種魔法薬なんかは、決して無駄には成らないだろうさね。
これを用意するにあたっては、普段は化粧品の方を作ってくれているコボルト婦人会の皆さんや、その為の原材料の納品依頼を受けてくれたオスロー及び、B級パーティーである【緑風の調べ】を筆頭とした、オーサキ領の冒険者ギルドの皆んなには感謝しかないやね。
同じ冒険者ギルドってぇ組織の冒険者なのに、こっちでは完全敵対なのに対し、俺の領地では完全協力って、なんかちょっと面白いよな。まぁ独自性と言うよりは地域性と言うべきか、それより単純に、地理的に離れてるからと言うべきか。
城壁周りに居る疑似ゾンビを何とかする為には、【純魔力】をぶつけて、魂に混ざった【魔力】を引き剥がした後、【プラーナ・オリジン】で、魂を恢復させるしかない訳だが、そんな事をゲリラ活動よろしく、ゾンビ蔓延る町中を隠れながら行っていくってぇ訳にもいかないからな。何せ、引き剥がす事が出来るのは、今の所、イブとジャンヌだけで、それも不完全にと言うなぁ。
なんで、ソレに関しちゃ、城内の数少ない魔導士の人にも手伝って貰うってぇ算段な訳だ。でなけりゃ、とてもじゃないが手が足りんからな。
それでも、到底手が頭数が足りてるとは言い難いが、それでもイブとジャンヌだけってよりは、何ぼかマシだろうさね。
いやまぁ、それを言うなら、魂の恢復が行えるのは俺と犬達だけで、それも、直接対象に触れてる必要が有る上、恢復させるには時間も掛かると言うね、人手や頭数以前に、効率最悪な問題も有るんだが、これに関しちゃ、前提として【プラーナ】が使えなくちゃいけないってのがボトルネックに成るからなぁ。もうその辺は割り切るしかないだろうさ。
うん、ミカ達、あの後、割とアッサリ魂の恢復、習得したんよ。アレかね、人間なんかより、魂って物を本能的に理解してるってぇ事なんかね?
「おん?」
「ああ、それじゃ、行こうか」
準備が出来てるのに動こうとしなかった俺に、ミカが一吠えする。見れば、イブとジャンヌの方も準備万端ってぇ感じだ。
一寸、考え込み過ぎたか。
「済まん!! それじゃぁ、作戦開始だ!!」
「ん!!」
『【気合】デェス!!』
二人の返事と共に、犬達が走り出し、俺も手綱にプラーナを込める。
と、えらい勢いで車体が加速し、それから左程もせずに、少しバウンドをしながらも車輪が地面から離れると、それは直ぐに車体に収納された。
「ひゃ!」
「おおぅ!!」
『たっのしぃ~!!』
車内から、ティネッツエちゃんや魔物’Sの声が聞こえるが、俺は俺で、機体制御に集中しなけりゃいけないんで、それに構ってる暇はなかった。
ジャンヌは『【気楽】音速までは出ないデス』と言っていたが、それでも結構なスピードだぞ!? これ!!
まるでミニチュアの様だった城壁があっという間に近づいて、その周囲の疑似ゾンビもハッキリと目視できるようになる。
「ん!!」
『【攻撃】デスゥ!!』
御者台の俺の両隣にスタンバってたイブとジャンヌが【純魔力】を放つと、その【純魔力】の威力によって、前方に居た疑似ゾンビ共が吹き飛ばされ、モーセの海割りの様にそこに道が出来る。
当然、その近くに居た疑似ゾンビが、その隙間に殺到して来るが、それすら再び放たれた【純魔力】によって吹っ飛ばされた。
疑似ゾンビの浄化の初手は、大量の【純魔力】で相手の【魔力】を押し流すってぇ効率の悪い使用方法だ。人より大量の【魔力】を有するイブとジャンヌだったとしても、それ程何度も繰り返せる代物じゃない。
しかも今は、魂の恢復までは手が回らないってぇ状況だ。その内、回復したゾンビ共も、再び襲撃してくるだろうからな。
少なくとも、連続での放出が出来てる間に、獣人の王国城内に乗り込まんと。
俺は、手に持ってた手綱に、更にプラーナを込めた。




