獣人の王国王都に着いてはみたがね
肉体を存続させるエネルギーである“魂”を【魔力】によって強引に存続させる為に、肉体的ダメージが積み重なったとしても倒れる事がないってのが、アンデットの特徴でもある。
もっとも、その代理エネルギーである【魔力】を自己生成出来るならその限りじゃ無いんだろうが、大抵は自己生成出来る量よりも、維持コストの方が掛かるから、他人を襲って【魔力】を強奪しようとする訳やね。
中には、【魔力】だけじゃなく、襲った時に発せられる【オド】目的でそれをやってる輩とかも居るそうだなんだわ。
そもそも、【オド】吸える時点で【魔力】を奪う必要って無いはずだし。
今回、魔族野郎が用意したのは、薬によって強制的に魂を削り取られ、その代わりに“命令を付与された”【魔力】を強引に混ぜられた為に、いわゆる傀儡と化した、『人工ゾンビ』な訳だ。
本来なら、そんな状態に成る前に対処するべきなんだろうが、この魔族に協力してるってのが、獣人の王国でも有数の腕っこきの冒険者で、色々あって、獣人以外の人種に対して敵愾心を持ってるってぇ御方なんよね。
もっとも、その敵愾心も黒幕である魔族の策略で植え付けられたものではあるんだがよ。その策略の所為で、俺も全くの誤解での恨みを買ってるから、色々とややこしい事に成ってるって面もある。俺が、直接働きかけるって事が出来ないからなぁ。
顔を合わせれば、確実に戦いに成るのは分かってる上、下手に倒すと、更に面倒臭い事に成るってのが分かってるんよね。
その理由の一つが、この冒険者さんが、同じ冒険者仲間やら、市民からは英雄扱いされてる事も有って、市井の人々からは絶大な支持を得ているって所。
つまりは、この冒険者……ヴォルフガングって、言ったっけか? こいつを倒しちまったりしたら、市民が敵に成りかねないんよね。
その上で、ヴォルフガングが他種族の排除的な事をしていた事も有って、それが魔族の策略の一部だって事を事前に知った俺達と、その協力者となった獣人の王国の国王君やら、所謂国のトップ連中とは敵対関係的な事に成って居た訳なんだわ。
で、水面下では色々と攻防を行って居た訳なんだけんども、この度、それが、無事、表面に出て来たって訳だな。
まぁ、手が出せない状況での暗闘を指をくわえて眺めているしかなかったって状態よりは、表立って手を出せるって状況の方がストレスは少ないってのも確かなんだけんどもさ。
向こうが、準備万端に色々とやってくれちゃってた事に対して、対応策を行う為に色々と準備しなくちゃいけなかったってのも有って、こっちはこっちで忙しかったのも確かだし、その準備も中途半端な所で戦いが勃発しちまってるから、事実、準備不足ではあるんだが、始まっちまった物はしょうがない。
そんなこんなで、押っ取り刀で獣人の王国まで来てみた訳、何だけんどもさぁ。
「完全にお城囲まれちゃってね?」
『【意見】籠城戦を仕掛けているようデス。積極的に攻撃を出来ない以上、仕方の無い事だとは思うデス』
本来、籠城戦ってのは、応援が来る事を前提にするか、相手が全くの短期でしか戦いを仕掛けられない事を見越して出ないと、やったらいかん戦法なんだがね。
所謂、時間稼ぎの作戦なんだわ。
「で、これって、俺達が応援って考えて良いんだよな」
『【肯定】そりゃ、オーナー、獣人の王国国王の後ろ盾な訳なのデス。ドラゴンスレイヤーは伊達ではないのデス』
だよね。正直、こっちの準備は万端って訳じゃない。それでも国王君が期待してくれているってんなら、それには答えなきゃな。




