肩書で物を言う
「この、内戦の英雄! エリステラレイネ女王の覚えも目出度い、ジョンペラーダジョニア・ドルヴィ子爵様に逆らって、この国で、まともに過ごせるとは思わん事だ!!」
「って子爵かよ」
「様を付けんか!! 小娘が!!」
誰が小娘か。可笑しいな、それ程、女顔って訳でも無い筈なんだが……
それ以前に、この……『【報告】ドルヴィ子爵デス』そう、それ。俺の事分らんのか?
『【嘆息】それは仕方ないデス。オーナー、魔人族国滞在中は基本的に個体名【オファニム】に搭乗してたのデス』
「ああ、その辺り頃だったっけか」
と言うか、オファニムが造られたんが、この時だったか。
あの内戦の時、国王軍はもちろんの事、王弟軍も、ほぼ何も出来ない内に俺が片を付けたんで、中立だった貴族なんざ、それに輪をかけて何も出来なかった筈なんよね。
「なのに、“内戦”の英雄ねぇ」
「何だ? 今更おじけづいたのか? ん?」
いや、おじけづくも何も、『自称エリス派』は、輪をかけて何もやって無い筈なんだから、活躍も英雄も無いだろう。
「で? その英雄さんは、内戦で具体的に、“何を”やったんだ?」
「は? 何って、そりゃぁ、群がる敵をちぎっては投げ、ちぎっては投げ……」
「あのさ、その内戦、事実上軍同士の衝突は起らなかったんだが?」
「は?」
理解出来ないよな? 理解出来ないだろうともさ。だって、それやったの俺独りでだし。
確かに、結果、あの内戦では多数の死傷者が出た。ただ、最初の戦闘での死者は居なかったんだ。そもそも、その程度に加減して戦ってたからな。
むしろ、多数の死者が出たのは、その後の【邪竜】降臨での事だ。あの時聖弓が、結界を張った事で、王都に居た人達の死者は出なかったが、王都に回収できていなかった者達は、ほぼ命を落とした。
流石と言うのも憚られるが、ソレが、【邪竜】の恐ろしさだったんよね。ただそこに居るだけで、周囲の【オド】を喰らい、死に至らしめる。
その特性は【邪神】と同じだが、偶々、干渉して来る【邪神】と違って、【邪竜】の方は、そこに居て関わって来る存在だったからな。その上、恐らく魔族の【恐怖】と同じ影響を周囲に撒き散らしてやがったからなぁ。ファティマが、長年【封印】してくれて無かったら、冗談抜きで、人類、ほぼ絶滅して、この大陸、死の大陸と化してただろうさね。
「俺は、あの場に居たんだが、じゃぁ、アンタは何処で戦ってたんだ?」
「そ、それは、あれだ、王弟軍が侵攻していた時に、その行く手を阻んで遅滞工作を」
「王弟軍、途中の領地、ほぼ素通りだったらしいが?」
俺の話を聞いて、ドルヴィとやらが、うろたえ始める。
「そ、それは、あれだ、知られてない所では戦闘が有ってだな」
「知られて無い戦闘で“英雄”と呼ばれるほどの知名度が上がるのか? 基本的に英雄やら何やらってのは、それを知った周囲の者達から付けられる尊称の様なもんだろ? なのに、知られていないのに、英雄とかって呼ばれてるとか、道理に合わんよな?」
「自、称?」
「うわ、恥ずかしいぃ」
『ぷ~くすくすくす?』
まぁ、この場に出た情報だけで判断するとなると、そう成りますわな。イブさんよ。そして煽るなラミアーとセフィ。それを聞いたドルヴィが真っ赤に成りながらプルプルと震える。
「や、やかましい!! 小娘共が!! 貴族に逆らうのか!!」
「あのさ、貴族が偉いのは、通常は領民の生活を守り、その身でいざと言う時、領地なり無辜の民を護るからだ。決して、貴族だからと、無条件で偉いって訳じゃぁ無い」
そう言いながら、俺は、国王から貰った短剣を見せる。
「第一、貴族だからって言うのであれば、俺も貴族だ」
「は、え?」
流石にコレでも貴族の端くれではあるのか、俺の持つ短剣が、相当に良い物だと分かるらしく、目を白黒させる。
「改めて、自己紹介をしよう。私は、隣国デストネーチェで辺境伯を賜っている、トール・オーサキ辺境伯だ」
「へっ、辺境は、く……」
俺の自己紹介で、ドルヴィの顔面が青く変わる。まぁ、自分より爵位の高い人間に喧嘩を売った訳だからな。それも隣国の。下手すりゃ外交問題に成る。
「ま、まさか、ドラゴン……」
おお、流石にここまで聞けば、俺の事に思い至ったらしい。その顔色は青から白へと変わって行く。ドラゴンとか呟いてるって事は、俺がドラゴンスレイヤーで、その上……
「そう、そして、この国では、伯爵位を賜ってる。お見知りおきを子爵殿」
自国の上位貴族に喧嘩を売ってる訳だからね。




