国民感情的にはどうなんじゃろ?
「むふぅ! よく来たのじゃ、オヌシ様!! 早速、コッチの書類にサインを……」
「婚姻誓約書じゃねぇか!! あと、魔人族国内なんだから、“様”付けはやめろや!!」
思わずタメ口がでちまったじゃねぇか!! 女王が様付けするって、外聞が悪いなんてもんじゃねぇぞ!?
謁見の間って程じゃないが、王に面会する為の割と広めの部屋の中、何でか俺の真横に座ったエリスに差し出された羊皮紙を見て、思わず突っ込みを入れる。ローテーブルをはさんで正面に座っているゴドウィン侯、この駄女王、止めてくれや!! 主君の暴走を止めるのも忠臣の務めだと思うんじゃが!?
『【苦笑】それはもう、タメ口と言うより放言デス。オーナー』
あーうん。そうだな。気を付けよう出来るだけ。
同じ部屋に詰めてくれている、魔人族国女王の近衛の方々も、元々は、自分とこの女王の発言に問題が有るって分かってくれているからこその聞いてないフリだと思うし。
「まぁ、許して下されオーサキ伯。これも、乙女心と言うもじゃろう」
ゴドウィン侯の発言に思わず顔を顰める。もう、なんちゅうか、視線が孫娘みる好好爺に成って居ませんかね!? 第一、嫌な上に、打算と下心が満載な乙女心だな!! 『愛』は『(腹ん)中に心』が、『恋』には『下心』を搭載だってか!?
そんな可愛い物じゃないし、多分、ノリツッコミででもサインしたら、喜んで教会に持っていきやがるぞ? この女王様はよ!
いや、それくらい慕ってくれているってのは分かってるんだが、まだ、どうにもやらなきゃいけない事も多いし、立場的にもなぁ。
公的にもちゃんと断り続けているのが、俺の誠意でもあるんだが……それでもエリスが国内の有力貴族と結婚と成ったら複雑な思いを抱くんだろうなぁ。
我ながら度し難いと思うが。
「それよりも、大森林の異変を見据えた、輸入に関しての修正の話し合いと……」
「分かっておる。聖弓からも話は聞いて居るのじゃ」
まぁ、獣人の王国の魔族が【呪術】や【呪詛】を使ってるって言うなら、魔人族国だって他人事じゃ無い筈なんだ。
確かに聖弓が居て、国の最大宗教として光教会が居るってのは、確かに対【呪術】、対アンデットに於いてアドバンテージと成り得るんだろうが、その光教会内に【邪神】のシンパらしき者が居たって事が、最大の難点なんよね。
「【魔族】に関しては、儂等としても捨て置けん事ではある。協力は惜しまん。そうじゃろう? 姫」
「うむ」
ゴドウィン侯がそう言い、エリスも苦々しい表情で頷いた。
まぁ、この国の人々は、魔族から人へと戻れた者達の末裔ではあるし、つい数年前にもその魔族の策略によって、国を二分する内戦へと陥りかけた。
その中で、この国の貴族が、魔族へと変貌もしているんだ。因縁浅からぬ物もある。
だからこそ、その話題はデリケートでもあるんだが、少なくとも、ここに居る者達の中には、相手が魔族と言う事だけで尻込む様な者は居ないらしい。壁際に建っている近衛の人達も、険しい顔にこそ成っては居るが、臆した様子はない。
「オヌシ様としては、光教会の方も気がかりではあるであるのじゃろうが……」
俺が、険しい顔をしているのを懸念事項が有るからだと思ったのか、エリスがそんな事を言った。いやまぁ、それも気がかりではあるが、むしろ気にして居たのは、この国の人達の感情面の事なんだがね。
「姫、それは、直接見られた方が」
「うむ、そうじゃな」
うん? あの後、何かあってって事か? 特には聞いてないが。いや、取り立てて訊ねても居なかったな。問題なさそうだったし。
「一度、光教会へ赴いてみるのも良いと思うのじゃ」
エリスがそう言うなら、一回行ってみるか。




