異変
公共事業の発注的な感じの依頼をする為に、冒険者ギルドに来てる訳なんだが、ギルマスから少しばかり気になる情報を聞かされる。
「魔蟲の分布が変わって来てる?」
「はい、森に入った冒険者から、その様な報告が上がって居ますね」
魔蟲は、大森林の中に居る魔物の虫だ。コイツ等は、環境の変化に敏感で、森に何かがあると、その生息地域を変えるんで、コイツ等が分布を変えたって事は、つまり、大森林内に問題が起こったってぇ事に成る。
「詳細は?」
「まだ、何とも……」
だよね。分布が変わったってぇ事が分かったって言うか、複数の冒険者から情報が寄せられて確信が持てたから、とりま報告って事だろうな。
この、報告連絡相談をキッチリやってくれる辺り、元事務方だよねぇ。偏見かも知れんが。
「まぁ、その辺の調査も頼めるか?」
「はい、分かりました」
『大森林の異変の調査』とか、漠然とし過ぎている感じもあるが、その辺りは、毎日の様に大森林に潜ってる冒険者のほうが詳しいだろうさ。いや、俺も冒険者では有るんだがね? この所、大森林には入ってないし、細かい変化があっても、良う分からんのよね。この所、獣人の王国の方にばっか行ってたからなぁ。時折戻った時に、家の街が結構変わってたりして一寸びっくりしたりするんだわ。
何かもう、路地裏のちょっとした食事処事情に関しては獣人の聖女の本拠地の街の事の方が詳しかったりするし……どうしてこうなった。いや、自分の選択ゆえだって事も、俺が居ない間にも色々と事業を進めてくれている優秀な家臣団のおかげだってのも分かってるんだ。分かってはいるんだが、何かこのままだといけないと俺のゴーストっぽい何かが囁くんだわ。うん。
一寸、あっちこっち飛び回り過ぎかねぇ。一応“扉”の調査でも有ったんだが。いや、獣人の王国のそれに関しちゃ、完全に自分から頭突っ込んでる訳だけんどもよ。
でも、魔族が暗躍してるって聞けばねぇ。
滅多に出くわさないって事でも有名な種族の筈なのに、俺の周辺、出過ぎなんじゃぁ!!
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「じゃ、後は頼むわ」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
ギルドマスターに見送られて、俺は冒険者ギルドを後にする。本当は討伐依頼に対する達成料の上乗せに関する話だった筈なんだが、最近の大森林の異変の話にまで言及する、実りのある時間だったわ。
まぁ、達成料に色が付けば、討伐も張り切ってやってくれるだろう。しかし、すぐに報告を上げてくれる所もだけど、その話題をしつつ、新たな依頼を作るってのは、ギルマスの手腕だよな。大森林内の調査であれば、俺にとっても重要案件だし、都合が良かったってぇ事でもある。
まぁ、うまい具合に掌で転がされた感は有るけどさ。




