そして決着へ……
中々、途中でキリが付かず、遅くなってしまいました。
申し訳ありません。
【プラーナ】は生命の根源で、最も原始的な生命に宿る力だ。人が使う様々な権能は、この【プラーナ】を触媒にして、各種所属する【世界】から引き出し、使う事が出来る。
【マナ】も【オド】も、その中の一つではある。だから、その【プラーナ】を使う事でそれらに干渉して防ぐ事も出来る……筈なんだ。
その代わり、その効率はアホ程に悪い。
だが、今は、そんな事なんざ言ってられない。俺は、俺の中にある【プラーナ】を循環し、増幅し、濃密に練り上げ、放出する。
「グッ……」
脂汗が滲み、頭に熱が籠って行くのが自分でも理解できた。俺の後ろには覆面男達に心を折られ、俯き脅える、生贄として連れて来られた子供達。背中越しにも、彼らがさっきまでとは違う種類の畏れを抱き、怯えているのが伝わってくる。
果たして彼らがどんな風に生きて来たかなんて俺には分からない。見た目通りに、普通に暮らしてた子供達なのかもしれなければ、もしかしたら、どうしようもない生き方をして来て、こんな年でも周囲に死を望まれて居る様なクズかも知れない。だが、今ここで俺の後ろにいる限りは、ただの“脅えた子供”に過ぎないんだ。だから、護る。絶対にだ!!
俺は、更に【プラーナ】を加速させ、濃密に練り上げる。どこまでも護る為に、濃く、硬く。濃く、濃く濃く、硬く、硬く硬く。濃く濃く濃く濃く、硬く硬く硬く硬く。
加速させ、循環させ、増幅し、濃密に。加速、加速加速加速加速。循環、循環循環循環循環。増幅、増幅増幅増幅増幅。濃密に、濃密に濃密に濃密に濃密に……
「な! 何だ!! 何が起こってるんだ!!」
時間が経ったせいだろう。多分、それ程ダメージを受けて無かったらしい、倒れ伏せていた覆面達の内の、運よく俺の【プラーナストーム】とでも言うべき領域内に取り込まれていた男が、意識を取り戻したらしい。
「!! ひゃ!! うわぁ!!」
「チッ!! 動くな!!」
俺の顔を見た途端、弾ける様に飛び上がると、静止の声も無視し、その男は【プラーナストーム】から逃げ出そうとし……
「ひょっ……」
出たとたんに【オド】どころか何もかもを吸いつくされ、塵となる。気がつけば、俺の領域の外には、元からあった古代遺跡の設備以外の物は無くなっていた。
割れた空間の向こうから、愉悦に満ち、それでいて渇望するかの様な、悍ましく、神経を逆なでする様な気配が伝わってくる。
まだ、満足してないってか? くそっ! これだけ貪り食ったんだ、最初に用意されていた生贄の数なんかよりも、ずっと多いだろうが!!
だが、もうこれ以上は貴様なんぞにはくれてやるものなんざぁ無い!!
俺は、更に【プラーナ】を強固に、濃ゆく、深く、練り上げ、加速させる!!!!
空間の亀裂からは、邪神の渇望が、愉悦が、まるで触手の様に渦巻き自らの糧を得ようと這いずり手を伸ばして来る。
「だ・か・らっ!! これ以上は!! 手前ぇにくれてやるものなんざねぇぇぇぇぇ!!!!」
さらなる【オド】を、生命力を、存在を、啜り、貪り、喰らいつくそうと言う邪神の意志と、それをさせまいと、護ろうと、これ以上は侵食させまいとする俺の意志がぶつかり、それが物理的な影響力を持ってスパークし火花を散らす。
邪神の、その意思が俺の意識すらも貪ろうと【プラーナ】に侵食しようと絡みつく。
「やら、せるかよおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
俺はさらに加速、濃縮をくり返す。頭がオーバーヒートでも起こしたかのように熱を持つ。プチッと言う音が聞こえ、ドロリとした物が、目を鼻を伝い、視界が赤く染まった。だが、邪神の侵食が終わらない。
まだだ。もっと、もっと、もっとっもっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと!!!!!!
「あ、あ、あ、ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
【プラーナストーム】となっていた物が、まるで、障壁へと変化する様に、何時もであれば俺の身体の周囲に纏われている【魔力装甲】の様に、煮詰まった深い黒色へと変化すると同時に、その一部が赤光を纏った“礫”へと変わって行く。
「手前ぇはっ!! いい、加減っ!! 自分のっ【世界】へとっ!! 帰っれええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
“礫”は、俺の意志に応じるかの様に、邪神の“意志”の方へと放たれ、ぶつかり、火花を散らしながら、対消滅する。
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、うがあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
ドクンドクンドクンと耳の奥が鳴り、やがてまた、ブツリッと言う音と共にキーンと言う耳鳴りに変わり、ドロリ、と、何かが流れ落ちた感覚だけを感じる。視界は赤から、まるでノイズの様に変わり、白に染まって行く。
だが、だから、どうした!! コイツは、この【世界】に居ちゃ成らない“異物”だ!! ここで!! 追い返す!!!!
「ぐ、ぐう、が、あ、あ、あ、あ、ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
俺は、すでに見えなくなった視界で、眼前のソレを睨みつけると、“礫”をさらに加速させ、ソレにぶつける。
恐らく、激しくスパークし、火花が散っているであろう事が、肌越しに感じられる。だが、まだだ、もっとだ!! もっと、もっとだ!!! もっともっともっともっともっとだ!!!!
「あ、あ、あ、あ、あ、ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!!!!!」
ビッキイイイイィィィィィィィィィンンン…………
唐突に空間そのものが悲鳴を上げた様な音が、響き、その直後、俺は、全ての手ごたえを失った。
頭がクラクラとする。唐突に全ての圧力から解放された様な、いきなり自身の感覚を叩き付けられたかの様な。急激に過敏に成った感覚を押し付けられたかの様な気持ちの悪さ。
「終わった、のか?」
答えの来ない事の分かり切った呟き。だが、さっきまでの、邪神の降臨して居た時の様な不快さも圧力も消えていた。
押し返せた、ん、だろう。多分。
気が抜けた瞬間、膝から崩れ落ちそうになる。
「チッ、まだ、だ」
まだ、全てが終わったって訳じゃない。残心を忘れるな。けど……
この後、俺はイブ達が来るまで、何とか意識だけは手放さない様にしているだけで精いっぱいだった。




