vs戦闘狂
「ふっ、ふふっ、ふふふふふっ、ふははははははははははははははははは!!!!!!」
バフォメットの高笑いが辺りに響く。
「やっはっりっ良い!! 良いぞ! 吾輩が、ライッバルッ、ト――――――――――ル!!」
テンション高けぇ。オートモードの時は猛獣って感じだったけど、理性のある時はある時で面倒くせぇ。
正直、今回の計画の中心だったと言うガープをぶっ飛ばした時点で、手を引いても良い様な気もするが、コイツ等が残っている限り、別の場所で同じ様な事をやられても敵わんからな。
バフォメットやゴモリーの話を聞く限り、魔族の奴らは超個人主義って気がしてる。そうなると、今回魔族が三人も動いてる事が不自然に思えるが、元々はゴモリーの単独行動で、この国で魔族へと至ったガープが途中から主導していた事を考えると、ガープの合流はむしろイレギュラーだったんだろう。
そうなるとバフォメットの参戦の方が不自然だが、どうも、この破滅型戦闘狂は、より強い奴と闘えればそれで良いっぽいから、戦争を起こすと聞いてやって来たって感じがする。戦争みたいな闘争の最中に、突然変異の様に“英雄”ってやつが出てくる事が有るからな。それ狙いなのかもしれない。
ともかく、ゴモリーはともかく、バフォメットはここで潰しておかなけりゃ厄介な事に成りかねない。幸い、今の俺の状態なら、何とか攻撃を通す事ができる様だしな。
この国に関わらなく成ればファティマを借り受ける事が難しくなるって事を考えれば、チャンスは今しかないって事でもある。
俺は体内循環を加速させながらファティマの切っ先をバフォメットに向け構えた。
「良い!! 良っいっ!! 闘争心だぞっ!! ライバル、トオオオォォォル!! その殺気の籠った視っ線っだけでっ、吾輩、イってしまいそうだぁ!!!!」
「逝ったまま還ってくんじゃねぇ、バフォメット!! ウリッ! ファティマアアァァァ!!!!」
「アオオオオオオオオオオォォォォォォォン!!!!!!」
『【了解】サー! いつでもどうぞ、サー!!!!』
俺のフルスイングしたファティマに乗って、ウリが宙に跳ぶ。
その後を追う様に俺は大地を蹴った。
他の犬達はゴモリーを警戒する様に、未だ怯えたままのイブの周囲で構える。
赤い軌跡を残しながらバフォメットに飛び掛るウリに、ヤツは合わせる様に拳を振るう。攻撃の出だしは俺達の方が早いにもかかわらず、音速を超えるヤツの攻撃は、あっと言う間にこちらに迫った。
ああ、知ってる。お前はそれができるって。
その拳を空中でお互いの脚を蹴り合わせる事で避けた俺達は、身体を反転し、空を蹴り再びバフォメットを強襲する。
狙いは頭部。あの超再生力を持っているバフォメットに、四肢の切断程度は時間稼ぎにも成らない。
あれが、何某かのエネルギーを使っての事だったとしても、戦闘中にソレが切れるなんて幸運を待つほどギャンブラーじゃない。
なら、狙うは当たり前に理解出来る弱点だけだ。
「なあ、バフォメット、お前、頭を潰されても平気か?」
左右からの同時攻撃。右手を前に出し形で体の泳いだバフォメット。それじゃぁ、どちらかの攻撃しか受け止められないだろ? ウリの牙とファティマの刃がバフォメットを同時に襲う。
ガキイイイィィィィィン!!!!
「マジか!!」
ウリの牙を左手で受け止めたバフォメットは、俺達の攻撃の方を角で受けて見せた。だが、そのせいで、角は無残に根元から折れてしまったが。
ウリの方の攻撃の方が若干攻撃力が弱いって判断したとしても、躊躇いなく左手を犠牲にするのは、超再生があるからか?
「ふっ、ふふっ、ふふふふふっ、ふははははははははははははははははは!!!!!!」
再び高笑いをするバフォメット。攻撃喰らっといて高笑いとか、本当に戦闘狂ってのは理解出来ねぇわ。もうホントに!!
「良いっ!! や、は、りっ良いっっ!! 吾輩にこの様なライバルを与えて下さった邪神様に感謝をおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
そう言いながらも引き戻した右腕を振るうバフォメット。
「グッ!」
辛うじてファティマで受け流す。コイツの攻撃、デフォルトで衝撃波が来るのが厄介だよなぁ!! こん畜生!!!!
一旦地上に降りて散開。恐らく俺の方を追って来るんだろうが、だとしても、ウリの攻撃がまったく通じないって訳じゃない。
こちらに集中してくれるなら、隙も出来るはず。まぁ、そう甘い相手じゃないって事も理解してるけどもさ!!
バフォメットの攻撃を下がりながらも受け流す。その度に衝撃波が吹き荒れるが、それは魔力装甲で凌ぎ切れている。
そう、魔力装甲を纏ってファティマを使ってすら、まだ足りない。
嫌になる程、地力の差が違う。その証拠に、バフォメットは未だに無造作に両腕を振るってるだけだ。
ウリも隙を見つけて果敢に飛び掛る、フットワークを使い、死角を狙い、フェイントを織り交ぜて。
だが、それもバフォメットは逸らし、ズラし、避ける。たとえ避けきれずに傷ができても、超再生であっと言う間に修復される。
本当に厄介だ!! まったく理不尽な存在だよバフォメットはっ!!!!
どうしたら良い? どうしたら凌ぎきれる? どうしたら……
って、クソッ!! 何を弱気になってる俺!! ウリの信頼した瞳を見ろ!! 俺の後ろに居る人達を思い出せ!! そうだ!! 出来る出来る出来る出来るやれるやれるやれるやれる!!
「……出来る出来る出来る出来る、やれるやれるやれるやれる! 頑張れよ俺ならできるよ諦めたらそこで終わりなんだよ!! やれよ!! 頑張れよ!! 頑張れるよ!! 限界なんざ、超えっちまえ――――――!!!!」
「!!」
ドンッッッッッッッ!!!!!!
と言う音と共に、衝撃波が吹き荒れる。魔力装甲のスリットの赤光が激しく明滅しながら高速で循環する。
バフォメットの振るう腕と、俺の振るうファティマとがかち合う。
一撃一撃毎に起こる衝撃波で、周囲に破壊の嵐が吹き荒れる。
「ついに!! つっいっにっ!! 吾輩と同じ高み迄上がって来たなっ!! トオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!」
「ウッガアアアアアアアアァァァァァァァァァァ!!!!!!!!」
ズゴガッ!!!!
鈍い、重い音をさせながらの一撃。その渾身の一撃を叩きつけた後、俺とバフォメットがお互いに跳び下がる。
ヒューヒューと言うお互いの呼吸音。バフォメットの右腕は肘から先が潰れ喪失し、俺の両腕もあらぬ方向にねじ曲がっていた。
バフォメットはニヤリと嗤いながら、右腕を再生し、俺もプラーナを活性循環させ、魔力装甲を操作し骨の位置を矯正すると、強制的に骨折を直す。
「やっはっりっ! 吾輩の目は確かだった!! 良いっ!! 良い破壊だ!! ト――――――ル!!!!」
叫ぶバフォメットを横目に、俺はイブ達が居た方に視線を送る。うん、やっぱり、ウリが、そっちの方は守っててくれた様だな。
内心、ホッとしつつ、視線を戻すと、俺の眼前に駱駝のドアップが有った。




