無限の夢と愛が詰まってるらしい
『来ちゃったニャ!』じゃ、ねぇんだよ。巨人族の里はどうしたよ。やけに静かだったのはコイツのせいかよ。パッシブで闘争力とか競争力とかのやる気をこ削ぎ落とすバストの能力ってか、最早体質は、ある意味最終兵器に近いものだしな。
「イブ、悪い、外の様子見て来てくれるか?」
「んっ」
俺の言葉にイブが頷くと、ドアから廊下へと出て行く。
俺とかイブはある種の耐性がついてるけど、領地の奴らはもしかして全員たれっちまってるのかもしれんしな。
ラミアーとセフィが感じてた違和感はこれだった訳だ。
バストのデバフの恐ろしさは、それが掛けられてるって事に気が付かないって所なんだよなぁ。気が付かないまま近づかれて、闘争心だとか向上心だとかのやる気を削ぎ落とされっちまって、結果、昏倒しているって言うね。
しかもそれやった本人は、本気で『争い事とか良くない!! ラヴアンドピース!!』とかって思ってるのが質が悪いんよ。
まぁ、本人の頭ん中がお花畑なのはどうして見ようもないけど、ただ主張が決して間違ってる訳じゃないし、巨人族の自己鍛錬には、ある意味うってつけな人物……いや精霊か。だったんで、彼らの里に置いて来た訳なんだが。
実際、バストが本気出すと、その『バブみ』で、ヤラレちまった奴が幼児退行までしやがるんで、放って置けば危険っちゃぁ危険なんよな。
ただ、巨人族の里は男も女も強さを求めて鍛錬をする様な連中ばっかりなんで、そんな連中の精神鍛錬としては、バストの存在はピッタリだったのと、バストが居住してる巨人族の聖域なら、普通の人間なんざ行かないから、バストがその能力を垂れ流してても迷惑はかけんだろうってぇ思惑があって、聖域に行くと昏倒するってぇ謎の、解明はしても解決はしないで巨人族に託してきたんよね。
それがさぁ。
「何でここに居るんよ」
「だって、ぜんぜん会いに来てくれないニャ。だったら、ウチが会いに来るしかないのニャ」
「……そんな約束した覚えが無いんだが?」
そもそもの話、あの後、巨人族の里に再び来訪する様な心算も無かったしな。
「そんな!! 酷いニャァ!! ウチに、あんな事までしておいてなのニャ!!」
……いや、ぶっちゃけ何もしてないじゃん? むしろあの時やったのって、バフォメットとの真剣バトルと、現状維持のお願いだけだし。
現状維持のお願いが“あんな事”の範疇だったとしても、再会の約束には成らんだろう。
「ウチは、あんな激しい感情をぶつけられた事も、本気で命の危機を覚えた事も……それに命を救って貰った事も……無かったのニャ。心が震えるほどヒートしたのニャ!!」
って!! 感情をぶつけたのも! 命の危機に陥らせたのも! バフォメットなんじゃが!?
命を救ったのは辛うじて当てはまるかも知れんが、その根本にあるのは、むしろバフォメットの方を助ける為だし、無抵抗の相手に攻撃し辛いってぇ偽善からだからなぁ!!
つまり、バストの心を揺さぶったのは、全てバフォメットっちゅう事だよな!? それでなんで俺に会いたいとかって方向に成るんじゃよ!!
いや、分かるんよ、その理屈だけは分かるんよ! 所謂、ラブコメ理論のチョロインムーブだし、コイツ、脳内お花畑だし!! だが、それで納得できるかどうかはまた別じゃん!?
うっわぁ、こっちにその気がない状況で、このムーブかまされると、こんなに厄介に感じるのか!
「それは勘違いに近い一時的な気の迷いだから忘れとけ。そして俺には、その思いは受け取れません!!」
「大丈夫ニャ! ウチの愛は無限大ニャ」
意味が分からん!!




