ムシャクシャしてやった
パチパチパチと言う拍手の音が聞こえる。
うん、この不愉快な気配と言い、嫌な予感しかしねぇんだわ。
「さっすっがっは、吾輩のライッバル!! 良いっ破壊だっ!!!!」
空に浮かぶ3つのシルエット。そのうちの既に馴染みに成りつつある山羊頭が、そう叫ぶ。てか、おまいら暗躍してんじゃねぇのかよ。
黒幕が表に出てきてんじゃねぇよ!!!!
後、破壊なんぞ一切してねぇからな!!
「バフォメット……」
「そうっだっ!! 吾輩だっ!! ライバル、トールよ!!!!」
面倒くさげに思わず呟いてしまった名前に、超反応するバフォメット。てか、良く聞こえたな魔族イヤーは地獄耳ってか?
と言うか、いつの間に俺の名前まで!! 何?完全に覚えられてるんか!! 何だこの嬉しくない知名度!
「あ~いたかったぞぉ!! 虫けらぁ!! ここで貴様を潰し、雪辱をすすいでくれるぅ!!」
ガープか。こっちもキマっちゃってるなぁ。魔族ってのは、皆こんなんなんか?
虫けらって見下してるけど、虫ってのは結構怖いんだぞ? マジでマジで。
そしてこちらは初見だな、何か駱駝に乗った美人さんに見えるが。
アレが噂の側室か? 確かに傾国の美女って感じだけどさ、何か人形っぽいんだよな。
「なる程、アレがバフォメットのお気に入りなのね」
って、喋るの駱駝の方なんかい!? え? 背中の美女は?
いや、駱駝の方も、潤んだような黒目がちの瞳で、その上まつ毛バサバサの美人系だけれども! 瞳だけは!! そしてバフォメットに負けず劣らずの美声! 何、魔族って声が良くないと成れないの?
いや、よく考えたら、ガープはそうでもなかったわ。良かった、俺の勘違いだったっぽい。別に魔族なんかには成りたかないが。
「で? 魔族どもが何でここに?」
「フフッ!! 良い! 破っ壊の香りに誘われたのだよっ!!」
答えに成ってねぇ!! てか破壊の香りって何じゃあ!! あるんか!? 破壊に、香りが!!
「ああ、暗躍をしてい居るはずのゴモリー達が、表に出て来て居る事が気になるのね?」
あ、れ? 駱駝さん、結構常識的?
「ゴモリー、あきちゃったんだもん」
でも無かった!!
「だって、ここの王様、あっさり陥落し過ぎなんだもん」
恐らく可愛く膨れてるんつもりなんだろうが、どうみても顔をパンパンに膨らましただけの駱駝です。萌えも何も無いわ!!
いや、普通は人の姿に化けてるんだろうけどさ、目の前の姿が駱駝なせいでエリスパパこれに、デレッデレになってたんかと思うと、かなり引くわ。
「ゴモリー、篭絡する為に、色々用意して来たんだよ? なのに夜伽一発で快楽堕ちしちゃうんだもん」
俺は超反応でイブの目と耳を塞いだ。「え? え?」って慌てているイブには悪いが、これ以上は教育に悪い。具体的な方法を説明すんなや!! てか、上に乗っかってる人型、分身なのか擬態なのか動きやがって、具体的な動きを実演してくれやがる!!
何という18禁。これが孔明の罠か!! おのれ孔明!!
要は、このゴモリーって魔族、篭絡している間の駆け引きや無理矢理堕としてる間の王の苦悩なんかを楽しみたかったらしい。
だが、初手で国王が陥落してしまった為、ゴモリーがやる気を失ってどうでも良くなっていると、ガープが内戦を引き起こし、それを血の供物にする案を出したらしい。
って、国王、2コマで即落ちかよ!!
俺が内心でうんざりしていると、ガープが突然叫び出した。
「ど~うでも良いだろうが! そんな事はよぉ!! こっちは虫けらに気絶させられてからイライラが止まらねぇんだよ!!」
怒気と共にこっちに飛ばしてるのは【恐怖】だろうか? ふと見ると、イブが青い顔で奥歯をガチガチと鳴らしている。
旅の最中ファティマに聞いていた通りなら、魔族のコレは、魔法とはまた違った技術体系の術なんだろう。
だからこそ、イブの魔力量が凄まじく多くても、【恐怖】に【抵抗】出来ないんだと考えられる。
俺の場合は、元々使っているのがプラーナだ。魔力やら何やらの大元に成っているエネルギーだ。それ故に【恐怖】にも【抵抗】ができるんだろうさ。
まぁ、今はそんな事どうでも良い。
「てめぇ、ウチの娘に何してくれてんじゃああぁぁぁ!!!!!!」
すでに全部乗せ状態だが、それにも構わず、全身にプラーナをつぎ込み、体内循環を濃く、深く、早く、加速させる。
全身のスリットから漏れ出ている赤光が更に光を増し、まるで脈動するマグマの様にも見えた。
「ファティマァァァァァ!!!!!!」
『【了解】サー! いつでもどうぞ! サー!!』
ファティマの返答を聞いた俺は、大地を蹴る。
「虫けらあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
それを迎撃する様に、ガープも動き……
出す前に、ファティマでガープを分叩く。
空を蹴り、加速し、ガープを更に分叩く、加速し、叩く。加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く。
ガープは信じられない物を見た様な目で俺を見たが、俺は構わず、ファティマの側面でフルスウィングする。
「ぺぎょっ」
それをまともに受けたガープは縦回転で吹っ飛んで行った。
悪いな、ガープ。あの時の俺、全力じゃ無かったんだわ。
一応でも仲間のハズのガープを吹っ飛ばしたにも拘らず、バフォメットは歓喜で打ち震えるかのような爛々とした目で俺を見。逆にゴモリーは何処までも無関心だった。
俺は、ファティマをバフォメットに突き付ける。
「さぁ、再戦と行こうか」




