アンデットを求めて
やはり実物が無けりゃ、研究ってのは進まんもんなんなって事が良く分かった。どれだけ思考実験を繰り返したとしても、前提条件違えば結果なんて違って当たり前。その上『全部違って全部いい』とかって、ゆっるい事、言ってられないというね。
違って良いのは“嗜好”の事であって“結果”の方じゃ拙いんねんで、と。
だったとしても、流石にアンデット作ったり、【呪術】の方、試したりとかは出来ねぇからなぁ。どっちも“禁忌”だし。ヴィヴィアン、やってたっぽいけど。あいつ、本当に薬効に関わる事に関してはマッドだよな。
まぁ、誰に迷惑かけたって訳じゃ無い様だから、見て見ぬ振りしてやるけどさ。ただもし、俺の領で、そんな危険な事やらかしやがったらOHANASHIだけんども。
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「と言う訳で、情報出せや! オラァ!!」
「訳分かんねぇよ!! いっつも唐突だなぁ!! お前は!!」
ギルド長室で書類なんぞをカリカリやってたグラスに、俺は単刀直入に本題を切り出したのだが、訳分らんと言われた。何故だぁ!! 主語が無いからさ。
まぁ、何時もの茶番だ。
魔物とか関連の話なら、冒険者ギルドの方が良かろうかと思って来たってぇ訳だ。
「アンデットなぁ。正直、あまり目撃情報の無い魔物ではあるよな」
「やっぱりか」
『アンデットの目撃情報とか無い?』の俺の質問に対するグラスの答えに、思わず納得の言葉が出た。発生条件が分からないのは兎も角として、アンデットってぇ魔物は、その前提として死体が無いと発生しない魔物な訳だからな。
何らかの要因で、本来混合するはずのない【魂】が【魔力】と混合したとして、その為には、まだ残ってる【魂】ってぇ存在が必要に成る。つまりは瀕死か、死にたての死体が無けりゃぁそんなものは用意できない訳だ。
当然だが、寿命で死んだ者にはそれは当てはまらない。【魂】ってのが肉体の維持に関わるエネルギーだと言うのなら、寿命ってのは、その【魂】が尽きた場合に起こる現象な筈だからだ。
尽きちまったってぇなら、当然、残ってる筈がないだろう。【魂】。
そうなると残るは犯罪者か冒険者か被害者位しか無い訳だな。
犯罪者なんて、言わずもがな、死刑なんて判決もあるだろうし、殺人ってぇ犯罪を起こしたってぇ事だってあるだろう。冒険者は、実力主義で、命懸けで魔物を狩り、命懸けで雇い主を山賊や野盗から護る事もあるだろうしな。
被害者は、まぁ、犯罪者に襲われる場合もあるだろうし、被験者としてそう言った研究に送られた場合だってあるだろうさ。
ただ、何にしても、その中から死者が出る率ってのは、それ程、多くは無いだろう。
アンデットが出現するってのは、そう言った数少ない事例の中から、更に少数の事象が重ならないと出てこない訳だからな。
ぶっちゃけ、確率的にはほんの少数。まぁ、殆ど無い筈なんだ。
「う~ん。どうしたもんかねぇ」
俺がそう呟くと、グラスが『何でまたアンデット?』と訊ねて来る。
「確実に厄介事に巻き込まれるけど、聞いてみる?」
「……止めとくよ」
うん。賢明な判断だ。




