思想の転換
いつ爆発するか分からない爆弾を抱えたような状態で、それでも表面上は何事も無いかのように進んでいるんだわ。
それでも軍部が国王君側についてくれた事もあって、宮廷内でも少しづつではあるが影響力と味方を増やす事が出来る様になってきたと宰相さんは喜んでるけんどもな。
教会内部の方は、教会全体を獣人以外を排斥するってぇ方向に進むんじゃなくて、有志がより純粋な信仰を行う為に分派を作るって方向で纏まってくれた。尽力してくれた聖女さんと侍女さんには感謝しかねぇよな。
「いえ、むしろ関係ない国のわたくし達に、ここまでお力添えをしていただいてる事の方に感謝したいくらいです」
「まぁ。そう言う意味じゃWin-Winではあるよな」
「うい? ですが、向こうはこのまま引き下がるでしょうか?」
まぁ、実際、貴族連中は掌握しつつあるってぇ所だし、教会関係は半ば中立。ただし市井に関しちゃ、ほぼ向こうに掌握されてるってぇ状態で、決してこっちが有利に成ったってぇ訳じゃぁない。
今までの傾向からすれば、自身が不利だと悟った瞬間に、即座に手を引く狡猾さがある相手だと分かってはいるが、多分まだ、その時じゃぁ無いだろう。何せ市井に、丸薬なんざバラ撒いてる位だし。
噂話とちょっとした思考誘導、それと欲望を刺激する事で大衆を不安に陥らせるってぇ手口は同じだが、丸薬の様な直接的な手段を使って来たのは初めてか? いや、誘拐と奴隷売買や、国宝の鎧を盗み出したりとかしてる事を考えると、そうでもないか。ただ、複数の手段を講じる辺りは同じだよな。何と言うかマメだと思う。
今まで見て来た魔族が、結構大雑把な感じだったからか、ちょっと意外に感じるんよね。
それに作戦そのものが割と長期的と言うか。
今回のコレも、長期的なスパンで考えてるんかね? そうなると、俺の方が不利なんだよな。だって、この国の貴族でもなけりゃ、この国在住の冒険者って訳でもないし。自領を持ってるんで、あんまり獣人の王国にばっかり詰めてられないんよなぁ。
やっぱり、何か連絡手段が必要だわ。
『【疑問】別にサイレン伝達で良くないデス?』
いや、サイレン、この国の所有魔物であって、俺専用にしたらあかんやろ。そもそも、俺がこの国に態々手を貸してるってか手を出してるのも、【魔族】関連で、暗躍してるってのが分かってるからなんだし、それ以外じゃ、態々この国に来る意味って無いんだから、俺専用にしちゃ……
あれ? 俺の専用にすると拙い理由ってそれだけか? いやいや、普通に隣の大陸らしいんだし、交易とか外交で話が出来る様にして構わんのか。それなら、ずっとホットラインとして機能してるのは意味があるのか?
そもそも、俺が“扉”の調査してるのだって、未知の発見を期待しての冒険者活動の側面だってあるが、遺跡の“扉”が使えるかどうかの確認って意味も有ったんだしな。
ぬぅ、このトール、陰謀のせいで初心を忘れてたわ!!
「そうなると、取り敢えず、この国と交渉して良いかを確認しに行かんとあかんのか」
『【提案】それは、個体名【ルールールー】に伝えれば良いのではないデス?』
「だな」
そう気付いてしまうと、何か制限があるからって、色々気を張ってた所為か、一寸重圧を感じていた背中かフッと軽くなった気がした。
相手が魔族だし、俺に喧嘩売って来てる相手なんだから、俺が何とかしなくちゃいけないとか思って思い詰めてたみたいだわ。
考えてみれば、問題自体は獣人の王国自体の物で、それを解決するのも獣人の王国の人間であるべきだったな。今更だが、あまり俺が出しゃばっても内政干渉だもんな。
それに、向こうの目的が、獣人以外の人間の排除って事なら、獣人の王国が他の人間の国と交易をするってのは向こうにとっては意にそぐわない流れだろう。うん。嫌がらせ嫌がらせ。
そもそも、純粋な獣人たち以外が国内に居る所為で、不都合が起こるってのが向こうの主張なんだから、交易し、今まで以上の益が有れば、少なくとも国交的、経済的には、相手の理屈は破綻するはずだしな。
「うし、一寸ばっかし思考が行き詰ってたみたいだわ。もう一寸、視野を広げんとな」
『【肯定】後手だからと対処にだけ回ってるのはオーナーらしくなかったデス。今はちょっとスッキリした顔をしてるデス』
さて、そうと決まれば、早速動きますか!!




