泣きっ面に蜂と言う。泣いちゃ居ねぇが
蔵書なんかを調べても、表立った所で分かる情報だと、『ネクロマンサーは悪い』『【呪い】は怖い』って感じの、巷説じみた風評で、具体性の無い物ばかりだったわ。何がどうしてこうなった的な物のないやつ。
『その時、裏で暗躍していたネクロマンサーが禁忌の術で死体を操り~』とかは書いてあっても、その禁忌の術ってのが具体的にどういった物なのかって事が全く分からんのよ。むしろ知りたいのは、その禁忌の術の内容だっちゅうの!
「禁書の方も調べないといけませんね」
「だな」
俺と一緒に、光教会の蔵書を調べてくれている聖女さんの言葉に同意する。蔵書の中でも、ネクロマンシーや【呪術】に関して、そのものズバリって本は見当たらなくて、結局あったのは、『こういった事件があった時にこう対処した』的な報告書の中に、さっきみたいな文章、1、2行が有る程度なんよね。
それで分かるんのは、結局、光系統の魔法がアンデットでは有効とかって、良くある相克の記述だけ。今回みたいに人に死霊を取り付かせるって場合の対処法なんざ書いてない。うん。その程度なら割と有名だよね。だとすると、前世で見たエクソシストとかみたいに、憑依された人間には聖水かけるのが効果的なんか?
つまり、この世界に対応すると、取り敢えず【回復呪文】でも掛けときゃ良いんかね? ただ、それで死霊だけにダメージが入れば良いんだろうけど、憑依されてる方にもダメージとか入ったら洒落に成らんのよね。
っても、【回復呪文】だって、教会の一部の人間しか使えないレアな【魔法】だから早々使える人間も居ないんだけんどもよ。こっち陣営だとスーリヤ位か? いや、イネスさんも使えるんだったか?
まぁ、“敵”が丸薬飲んだ人間に死霊を取り付かせて操ってくるってのは、俺の想像でしかないからな。あくまで『最悪の場合』って話だし。
まぁ、取り敢えず聖水があるかどうかだけでも確認しとこうか。
「って事で、聖水とかってのはあるんかね?」
「聖水、ですか? はい、ありますが」
何だろうねこのピンッと来てないって反応は。聖水って名前前世とは違う用途で使われてるとかってモンなんかね?
「ですが、あれは儀式で使われる道具を浄化する為の物ですよ?」
「……ああ、洗浄液扱いなのか」
まぁ、確かに例えばアルコール掛けて悪霊を消滅させるとかって言ってもピンッと来ないか。いや、でも、日本だと酒とかで魔を払ったりしてるよな? 何でじゃろ? そう言えば、仏教なんかじゃアルコールの類は禁忌ではあったし。酒を使うのは神道の方だったか?
「いや、聖水でもって死霊を浄化すると言うか……」
「……死霊をですか? 滅するのではなく」
あー。こっちの世界じゃ死霊の類はただのアンデットモンスターって扱いなんか。
あれ? でも、魂に干渉する術が有って、それがネクロマンシーて物でもあるんだよな。
『【説明】魂には干渉するデス。ただし、精神を伴わない部分だけです』
……魂魄理論の方か? “魂”ってのは要は肉体を生かす為のエネルギーで、精神を生かすためのエネルギーが“魄”って言う。
そうなると、死霊ってのは“魂”と【魔力】を混合させた、一種の魔法生物って事なのか。
つまり、ネクロマンシーって言う術は魔力によって“魂”って言うエネルギーに干渉して、死霊に作り替え使役するって言う事に成るのか。ああ、だからアンデットを操れるってぇ訳か。
「って、事は、俺の考えてる通りの事が出来るって事は、つまり、自分の意志とは関係なく肉体を操られっちまう可能性があるって事か!?」
『【肯定】そう、なるデス。でも、そこまで大量の死霊を操れるとは思えないのデス。それこそ馬鹿みたいに大量の魔力が必要となるデス』
いや、相手が魔族なら、そんな馬鹿みたいな事もあり得るんじゃが!?
参ったな、対策を考える為に蔵書を漁りに来て、もっと困った事実を発見する事に成るとは。
「もしかして、死霊ってのは、既に変質した魂って事に成る訳か」
「えーと、はい、汚れた魔力によって人を襲うようになったのが死霊と言われています」
俺の言葉をスーリヤが肯定する。
成程、そりゃ、滅する以外には方法が無い訳だ。




