月下の戦闘
夜も更けて空には煌々と光る月が一つ。
戦時下の為なのか、外をうろつく人の姿も無く、街は静まり返っている。響き渡るのはチャッチャッと言う犬達の爪が石畳を叩く音だけだ。しばらく歩いて眼前には黒い山の様なシルエット。
幼児幼女ロボメイド犬5匹。何ともなしに、その城壁を見上げる。
俺はイブの手から降りると、身体能力向上からのアドアップ、ブーストに魔力装甲までを発動した。
そういや、プラーナなんだから、プラーナ装甲? ……いや、魔力装甲で良いか、呼びやすいし。
「ファティマ!!」
『【承認】サー! イエス、サー!!』
そしてファティマを武器状態に変形させ、それを握ると、ウリと共に正門へと走った。
流石に王弟軍が間直に迫っているだけあって、城門には結構な人員が配置されている。警告とかしてきているが、俺はソレをガン無視してそのまま突っ込んで行く。
戦闘開始の合図は、城壁からの矢の発射だったが、それをイブが【ファイアボール】で迎撃すると、兵達からどよめきが起こる。
こうも的確に、しかも連続で魔法を撃てる者など殆ど居ないらしい。
悪いね、ウチのイブ、天才だから。
続いてようやく、向こうの魔法。詠唱時間がかかるのもそうだが、飛距離は矢の方が長いからな。
「ファティマ!!」
『【了承】サー! イエス、サー!!』
俺はそれをファティマで切り裂く。兵のどよめきが大きくなる。
どれだけ動揺してても、そこは良く訓練された兵士。城門が閉じられ、跳ね橋が上がって行く。
普通の相手ならそれでも良いだろうさ。普通ならな。
俺とウリは脚に力を込めると、大きく跳躍して堀を飛び越える。そしてそのまま城壁を駆け上がった。
「ま、魔法障壁を!!」
隊長格っぽい兵士がそう叫ぶ。淡い光が立ち上る。これが魔法障壁か? だが無駄だ!
城壁の上から張られた魔法障壁をファティマで切り裂く。
兵士達の顔があ然となった。
「ファティマは、お前等の国の国宝だぞ!! 聖武器の名は伊達じゃないての!!」
『【歓喜】サー! お褒め頂き光栄です!! サー!!』
城壁上に居た兵士をファティマの石突で昏倒させ、そのまま内部に飛び降りる。
跳ね橋の操作レバーを蹴り、橋を下ろすと、城門を力任せに押し開いた。
そこからミカ達が飛び込んで来た。
犬達が入ったのを確認し……
「って、イブ!!」
最初の援護射撃以降は、ラファと一緒に町中に戻る筈だったイブまで中に入って来ていた。
彼女を乗せたラファが『偉い? 偉い?』って感じで見てくる。
「ちから、なる、よ?」
そう言いながら、フンスと鼻息を荒くするイブ。
ホントにコイツラは!
色々と言いたい事はあるが、今は時間がない。
「おまいら後で説教な」
「『!!』」
何で!? って顔してんじゃねぇよ!! 当たり前だろが!!
とりあえずミカとラファでイブを守って貰う、俺とウリは派手に立ち回り、バラキとガブリは遊撃。
「イブ!! 【睡眠】か【麻痺】系で頼む!!」
「ん!!」
俺とウリが向かって来る兵士をぶちのめし、バラキとガブリがかく乱する。そうやって意識がこっちに向っている所でイブの魔法が飛ぶ。
あらかじめ意識して居なければ、【状態異常系統】の魔法に対しての【抵抗】は難しい。
面白い様に兵士達がバタバタと倒れて行く。
「魔法使いだ!! 魔法使いを狙え!!」
兵士の叫びに、イブに向かって矢が飛んで行く。だが、それはミカとラファが許さない。
その悉くをインターセプトする。……分身してるように見えるのは俺だけだろうか?
「な、何だあの犬達は!! 数が増えてるぞ!!」
「馬鹿な!! 犬の様に見える魔獣か!?」
あ、気のせいじゃ無かった。
ウリはその筆頭だが、うちの犬達、やっぱり犬っぽい何か別の生き物だと思うの。
そんな事を考えながら兵士をぼてくりこかしてると、ようやっと魔術詠唱を終えた魔術師達から相次いで攻撃魔法がイブに向かう。
流石のミカとラファも魔法を受け止める事は出来ない。
だが……
「!! フンス!!」
イブの身体から出る吹き荒れる魔力に、それ等はかき消された。
この場に宮廷魔術師の様なエリートが居ない事を差し引いても、イブは頭一つ分どころじゃない位に飛び抜けている。
齢四歳でこの無双っぷり、成程、もしかしたら俺は過保護だったかもしれない。
いやいや、ここに居るのは所詮は攻撃魔法も使える兵士程度の者達だ。慢心良くない。
それでも、娘の様にも思っている者の優秀さを垣間見れば、嬉しくなってしまうのは、親バカ故だろうか?
俺は、魔法が飛んできた方向を見極めると、魔術師達を優先的に潰す。俺やイブ、ウリなら魔力装甲や外装、純魔力量での【抵抗】できるが、ミカ達に【状態異常系統】の魔法を使われたら【抵抗】できるかが分からんからな。
もっとも、魔術師達は、搦め手に魔法を使うなんて事を思いもついて居ない様だが。
【バフ】【デバフ】は基本だと思ってたが、違うんじゃろか?
俺なんて【身体強化系】盛りまくりなのにな!! ……すみません自分【身体強化系】しか使えません。しかも魔法じゃないと言うね。
と、気が付けば、周囲にいた兵士達は全て倒れ伏していた。
それなりに人数は居たが、城の兵士達の数がこの程度の訳など無い。にも拘らず、増援が来る様子も無い。
『【報告】サー、上空に……』
「あ、うん」
もしかしなくてもアレだよね~。




